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文字通り急造された「バモスホンダ」はあまりに早すぎた
軽トールワゴンの始祖、1970年代のオーパーツ、ライフステップバン
文字通り急造された「バモスホンダ」はあまりに早すぎた
ジムニーの登場は、すぐ大ヒットになったわけではないものの、未だマイカー元年でライトバンではなくセダンを買えるようになったファミリー層、安価なスポーツ・スペシャリティを買えるようになったスポーツ層にさらなる余裕ができれば、脅威となる存在でした。
そのため、1974年にはダイハツが1リッター級クロカン4WD「タフト」(初代)を発売するなど、各メーカーで同様の動きが出てくるわけですが、中でも「こりゃイカン、ウチでも同じようなのを急いで作れ!」と、文字通りの突貫作業で急造したのがホンダです。
ジムニー(あるいは原型のホープスターON)を見て、デザイナーへすぐにスケッチを書かせ、近くの町工場でTN360トラックをベースにトンテンカンと試作車を製作、ジムニー発売からわずか7ヶ月で発売されたその名は「バモスホンダ」。
もちろんTN360どころか、どの車種でも4WD車など発売したことがないホンダでしたから、バモスホンダもただのリアミドシップ後輪駆動2WD車。
足回りもベース車と大差なく、ただフル幌のオープンキャビンでドアすらないスパルタンな構成に、ど真ん中にスペアタイヤ、その左右へ丸目ヘッドライトを配して一応は固定式フロントガラスを持ち傾斜する、平べったいフロントマスクが特徴です。
これで4WDでもあればともかく、「カタチだけジープ風の2WD車」はそれまでにもいすゞがユニキャブ(1967年)で、スズキも1990年代のジムニーJ2などで失敗していますから、バモスホンダもレジャー用としては泣かず飛ばず。
もちろん軽トラとしても、「マトモなキャビンすらない、ただの変なクルマ」でしかありませんから全く売れず、叩き売りを物好きが買う程度の、当時としても変わり種な駄作のひとつにしか過ぎません。
しかしそれでも、「既存車をジープかサンドバギー風に架装し、スポーツとは別方向でのスペシャリティカーとした」のは画期的で、100台限定販売に留まったダイハツのフェローバギィより、よほど本気で売っていました。
もしホンダが初代シビックを作るため軽トラ以外の全車種の生産を一時やめていなければ…まあたぶんそれだとホンダは潰れていたでしょうが…バモスホンダは1980年代に発売していれば、ウケたかもしれない「RVの元祖」です。
軽トールワゴンの始祖、1970年代のオーパーツ、ライフステップバン
ホンダはバモスホンダ以外にもう2車種、「気合を入れて空回りしたRVの元祖」を販売しており、それが1972年発売の「ライフステップバン」と、1973年の「ライフピックアップ」。
環境対策がしやすい水冷エンジンを積み、スペース効率に優れた2BOXタイプのFF軽乗用車であり、少し遅れて登場して世界的大ヒットとなる初代シビック原型とも言える「ライフ」(初代)をベースに、背の高い5ドア、およびピックアップトラック化したもの。
あくまで軽商用登録だったので、フルキャブオーバー軽1BOXバンや軽トラに実用性では全くかなわなかったものの、ベーシックな軽乗用車の背を高くしてスペース効率を向上し…というのは、1993年に爆発的ヒットで革命を起こした初代スズキ「ワゴンR」と全く同じ。
「20年早く生まれたワゴンR」がただの不便な軽バン扱いで全く売れなかったというのですから、1970年代の国内自動車市場はどれだけ保守的だったのかがわかるエピソードで、まさに「生まれるのがあまりにも早すぎたRV」の代表格でしょう。