──分割グループの中でも穏健派と急進派がいるんですね。でも、そんな人たちが日本に来て、会議をしても何か影響力があるんですか?
ジェームズ:いまアメリカ、イギリス、ウクライナが進めているロシアの内部解体工作に日本も参加してほしいということでやってきています。日本では扱いが小さいですが、たとえば、この会をヨーロッパでやるとなるとEUの議会のど真ん中でやるほどで、ヨーロッパでは大きな影響力を持っている組織です。日本ではまだそこまでいってませんが、日本の官僚のやり方としては前例があれば動きやすいんです。なので、今回は小さい規模ですが、前例を作ったんです。この後、この組織はロンドン、フランクフルト、イスラエルと世界中を回って、日本にもまた来年やってくると思います。こういう地道な努力を続けていけば、もしロシアが本当に解体になった時、アメリカ政府に対して日本政府は、一枚噛ませてくれと言えるんですよ。こういう流れがMI6長官が言ったロシア内部からの行動によってプーチン体制が崩れるかもしれないということなんです。要は、崩れるようにいろんなところに手を打っているんです(笑)。これが諜報機関のやり方で、どの様にブレても対応できるように選択肢を用意するのが仕事です。もっと言えば、「ロシアの内部解体」を日本を含む世界に対して宣伝し、ウクライナ戦争後のゴールを諜報機関が勝手に描いているのです。私自身の経験上、この「勝手にゴールを決める」というのが諜報機関の任務の本質です。この観点で今回のMI6長官のスピーチを見れば、彼の登壇自体が世界に向けられた巧妙な認知戦だったということがわかってきます。
──認知戦だったんですね。
ジェームズ:はい。それももう何年も前からやっています。たとえば、さきほどの会に来てるロシア人はロシアからの亡命者ですからね。亡命の段取りも含めて20~30年ぐらいかけてやっています。ですから、MI6の長官がわざわざ公の場に出て、ロシアの内部からの行動によってプーチン体制が壊れるかもしれないと言ったということは、予測ではなく、プーチン体制はまもなく崩れる、そういう仕掛けが整ってきたという発表です。英米の諜報機関のやり方は常に「政権転覆」であり、日本の明治維新でも成功しているほど、世界中で数世紀にも渡り成功体験が蓄積されています。ロシアのハイブリッド戦や中国の超限戦などはすべて後発の「パクリ」レベルであり、英米の「政権転覆」工作に比べれば可愛いものです。彼らは21世紀における成功体験として、「プーチン体制の崩壊」を狙っています。
──前回の記事でもプーチン体制は危なくなってきてると分析されていましたが、さらに危なくなってきていると。
ジェームズ:私がプリゴジンの乱でプーチン体制は決定的な打撃をくらったと言いましたが、MI6長官も同じことを言っているわけです。しかも、プーチン体制が崩壊するシナリオをいくつか提示したんですよ。特に国内のクーデター、これはGRU、ワグネルによるクーデターだろうと匂わせているのが注目で、MI6がGRU 、ワグネルとなんらかのチャンネルを持ってる証拠でもあります。