今回取材に当たって、試合はもちろんサポーターの振る舞いにも注目し、ゴール裏席に近付いてみた。確かにそこにはJリーグとは違った、ほのぼのとした空気があった。そして、寒さが身に堪えはじめる11月の月曜ナイターという厳しい条件にも関わらず、中高生や子どもの姿が多く見受けられ、新宿という街の多様性を示すかのように、外国人サポーターも見られた。時折演奏されるブラスバンドの応援も、かつてのオランダ代表や、甲子園のアルプススタンドのようで、耳当たりが良かった。

浦和レッズのサポーター 写真:Getty Images

世界一安全なスタジアムの実現

丸山社長が応援ルールの試みを発表したのは2023年夏のこと。同年8月2日、天皇杯ラウンド16の名古屋グランパス対浦和レッズ戦(CSアセット港サッカー場)後、0-3で惨敗した浦和のサポーター約100人が暴徒化。ピッチのみならず相手側サポーター席にまで“殴り込み”を掛け、警備員への暴行やスタジアム設備を破壊し、愛知県警が出動する事態に発展するという出来事があった。

浦和は翌年の天皇杯出場権を剥奪されたが、当の暴徒らには無制限入場禁止という大甘裁定を下しただけではなく、浦和フロントは当初暴行の事実を否定。証拠となる映像が世に出ると、今度は「名古屋サポーターから挑発されたのが原因」と相手に責任をなすりつけ、結果的に恥の上塗りとなった。

この事件が、クリアソン新宿が決めた応援ルールの直接的な要因とは断言できない。しかし、大の大人が感情むき出しで相手チームを汚い言葉で罵ることが、“自称サポーター”の暴徒が事あるごとに持ち出す「フットボールカルチャー」なのだとすれば、クリアソン新宿はこの風潮を全否定し、180度違う角度から新たなサポーター文化の醸成に挑戦していることになる。

当初は“官製応援”と揶揄されることもあったこの決断。実際に現場で確認してみると、子どもも、その母親と思われる女性も、実に楽しそうに応援する姿が見られる。Jリーグが旗印としている「世界一安全なスタジアム」が、そこには確実に存在していた。