こうした残業は完全に悪である。

良い残業とは?

翻って良い残業とは、悪い残業の真逆である。すなわち、残業代が時間単価より低いときに起きる。

これは繁忙期、いわゆるかき入れ時に起きる状況だ。たとえば、お客さんが大勢やってくる鉄火場では、多少割高な賃金を支払っても売上や売上単価が上がるなら会社はペイできる。

企業は繁忙期に残業しなくて済むように人員を充足すると、そうでない通常期に人あまりになって競合他社に敗北して会社は消える。そのため、通常期に残業をしない業務量を考えて人材を揃え、繁忙期は残業をして仕事の調整をするのが合理的な経営である。

また、日常業務を捌いた後に、未来につながる仕事を残業でこなしているのも「あり」という場面もある。筆者が勤務していた会社では、上司は残業時間でマクロの会計処理の自動化プログラミングをして、日常業務の労働生産性を高めることをやっていた。

こうした仕事は残業という先行投資をすることで、その後の業務効率を全体的に向上させる効果があるので、やる価値は高いのだ。つまり、労働生産性を高める施策をする活動時間に残業はありだと考えている。

シゴデキが残業する理由

筆者は小さなマンションにすし詰め状態で働くベンチャーから、東証一部上場企業で社員数1万人以上の企業まで働いてきたが、なんだかんだいって勢いがあって仕事ができる、いわゆるシゴデキほど残業が多かった。

これは一般論で言われる「仕事ができない人ほど残業が多い」という意見と反する。ざっくり下記の通り3分類に単純化してみた。

1.仕事ができない人…仕事が遅く効率が悪いから残業をする 2.普通の人…業務時間内に終わり残業なしで帰る 3.仕事ができる優秀な人…業務量が一般社員の何倍も多く抱え、その上で常に労働生産性向上を考えているため、結果として残業が多い

「優秀な人は残業しない」と主張する人は、大抵の場合「定常の作業をこなすワーカー」のことを言っている。だが作業に熟練すれば必然的に仕事は高速化するのが普通なので、その場合は「優秀な人」というより「ベテラン(熟練者)」という表現が正しいだろう。