『ザイム真理教――それは信者8000万人の巨大カルト』(フォレスト出版)。そんなおどろおどろしいタイトルの本が、バカ売れしている。5月22日に発売後、売上をグングン伸ばし、3週間で4万部を突破。同ジャンルの書籍としては異例の売れ行きで、アマゾンでは、発売直後から経済学ジャンル1位の座をキープし続けている。
著者は、20年前に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)で一世を風靡した経済アナリストの森永卓郎氏。柔和な笑顔で、難解な経済の仕組みをわかりやすく解説してくれる森永氏が「人生の集大成」として取り組んだのが“ザイム真理教”だったという。
いったい、どんな内容なのか。本人に、そのカラクリをじっくりと話してもらった。
「岸田文雄総理が、このまま緊縮財政に取り組めば、日経平均株価は、現在の10分の1の3000円になっても不思議ではありません。いま総理の頭の中にあるのは、金融の正常化と財政の健全化しかない。なので、とてつもない勢いで増税と社会保険料アップ、あるいは公共サービスカットがきます。すでに、もう毎月やるのかと思うくらい、ビッシリ増税メニューが並んでいるんです」
そう言って森永氏が予測する、岸田政権の増税スケジュールは、確かに強烈だ。
岸田総理の経済政策の元になっているのが、“ザイム真理教”だという。絶対的な国の指針として財務省(旧大蔵省時代から)が布教し続けてきたものの正体は、目に見えないだけに、不気味でおそろしい。 ザイム真理教とは、「国の借金が増え続ければ、国家財政は破綻する」と国民にアピールして、税金や社会保険料の負担を増やすよう、“布教活動”を行っている財務省(旧大蔵省)官僚によるカルト的な教えのこと。
「政治家も多くの国民も、財務省のマインドコントロールによって支配されていて、もう身ぐるみはがされるくらいに不幸な目に遭わされるかもしれないのに、それでも多くの人が信じ続けているんです」(森永氏)
では、ザイム真理教の教えとは、具体的にどんなものなのか。本の中から、その“教義”の一部を引用してみよう。
・税収を大きく上回る歳出がなされ、その差である財政赤字がどんどん拡大している。
・その結果、日本の国債残高は、どんどん増えていて、いまや先進国のなかでダントツに大きな残高になっている
・財政赤字を放置すれば、将来世代に負担を先送りすることになる。
・同時に、国債の信任が失われれば、通貨の信任や金融機関の財政状況にも悪影響を及ぼす
・国民が広く受益する社会保障費は今後も増大していくと見込まれ、その費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税の引き上げは必要
「どれも、まったくその通りだ」と思った人は、すでにザイム真理教に洗脳されている可能性が高い。森永氏は、有力な学者や政治家、財界人、マスコミがことごとく、この教義を信じ込まされた結果、とんでもない方向に日本経済が迷い込んでしまったと指摘する。
財政再建を至上命題とし、景気動向を無視して消費税をアップして、デフレ脱却の芽を摘んできた。長年、赤字国債を大量に発行してきたせいで、国の財政は借金まみれだと言うが、森永氏の試算によれば、その借金と同じくらいの資産を日本は持っており、 危機的な状況には、まったくないという。
「2020年度末に財務省が公表した数字を見ると、日本は1661兆円もの借金を抱えています。ところが、それと同時に、政府は有価証券や土地、建物など1121兆円という莫大な資産を保有しています。さらに通貨発行益を加えると、実質債務はわずか8兆円。しかも現在の岸田政権が財政緊縮を徹底した結果、すでに日本政府は借金どころか、預金を持っていると見込まれるんです」
では、いったいなぜ、ザイム真理教がそこまで力を持つようになったのか。いくつかのポイントを挙げて、森永氏に詳しく解説してもらった。
みんな知っているけれど、誰も怖くて言えないこと
――どうして、このテーマを書こうと思われたのですか。
森永氏 ちょうど、65歳になって、子供も巣立ったし、無理に仕事をする必要はなくなったんですよ。あと畑で農業も始めて、お金がなくても生きていける手立てが整ったので、最後に本当に書きたいことを書いて、人生を終えようと思ったんです。
ずっと、みんな知っているんだけれども誰も怖くて言えないテーマが、私の中では2つありました。ひとつは財務省がカルトだっていう話と、もうひとつは日本航空123便の墜落事件の真相です。そのうち、とりあえず、ひとつをやったという感じなんです。
――大手の出版社からも出版を断られたそうですね。
森永氏 そうなんです。まず、書く前に企画を持ち込んだんですが、みんな断られました。そこでとりあえず原稿を書いてしまって大手出版社に持ち込んだんですが、これもすべて門前払い。
どこがいけないというのでなく、そもそもこのテーマは書いてはいけないんだという雰囲気でした。編集者レベルで通ったところでも編集会議にもあげてもらったけれど、もう箸も棒にもかからない感じでした。私は、これまで100冊以上本を出していますが、こんなことは初めてです。
――それはタブーに触れるからでしょうか。
森永氏 (言葉にはしないけれど)そんな感じですね。でも、その気持ちはわからないでもないんです。彼らもサラリーマンで、生活を守らないといけませんので。私は、出版にはまだ言論の自由は残っていると思っていたけれど、もうそれもないなということは、はっきりわかりました。諦めかけていたときに「うちで出しますよ」と、社長ひとりで経営している三五館シンシャという出版社が引き受けてくれたんです。
――それだけ断られ続けた企画が、いざ発売したら、たちまちベストセラーになりました。
森永氏 この3週間、経済書では、ずっと1位をとっています。だから8000万人は騙されているんだけれども、4000万人はまだ騙されていない(※1)。その人たちには響いたのかなと。
※1 2021年10月に朝日新聞が行った世論調査によれば「消費税を下げたほうがいい」と答えた人は、全体の35%(約4000万人/1億2000万人)にすぎなかった。残り65%(約8000万人)の人は「消費税を下げなくてもいい」、あるいは「増税してもいい」と回答している。
――メディアで、本書のことは取り上げられていますか。
森永氏 大手新聞社とテレビ局は完全無視です。書評もまったくありません。大手でない出版社と週刊誌でいうと、「アサヒ芸能」とか「週刊実話」はわりと大きく扱ってくれています。あとはタブロイド紙やネットメディアもメチャクチャ扱ってくれています。大手メディアとテレビは一切ないです。
――20年前の『年収300万円時代を生き抜く経済学』と比べたらどうでしょうか。
森永氏 『年収300万円~』は、最初のバージョンが37万部ですが、続編が十何万部か売れて、関連本もすべて入れると約100万部売れました。それと比べると、今回の本も同じくらい勢いはありますが、取り上げられ方は、大手新聞とテレビ局が無視しているというのが徹底的に違いますね。