待遇面の魅力が低下
かつては地方公務員は比較的給与水準が高く安定している職業だとして人気が高かったが、近年では志望者は減少傾向にある。総務省の発表によれば、2022年度の地方公務員の採用試験の倍率は5.2倍と、過去30年間で最低となった。
「人手不足で広い業界で給与が上昇し、以前は賃金が低い傾向があった建設業や小売業なども上昇傾向にあり、相対的に地方公務員の待遇面の魅力は低下している。このほか、地方公務員という仕事に将来的なキャリアアップのイメージを描けない若者が増えたという要因も大きいだろう。SNSや口コミサイトの普及などで地方公務員の実態が広く知られるようになり、純粋に職業として魅力を感じられなくなった。転職も難しく、キャリアアップに敏感な若者が『いったん地方公務員になると一生、地方公務員』という生き方に危うさを感じるのは当然だろう」(地方の県職員の男性)
当サイトは2024年1月28日付『スーパー店長から市役所職員に転職したら地獄…地方公務員、なぜ不人気の職業に』で地方公務員の労働環境について報じていたが、以下に再掲載する。
――以下、再掲載――
スーパーの店長から市役所職員に転職したという人が、SNSに「年収が450万円に下がった」「サービス残業が多い」「有給休暇を取りにくい」「仕事がつまらない」などと投稿し、一部で話題を呼んでいる。投稿内容の当否はともかく、地方公務員には、地元では給与水準が高く、残業代もきちんと支払われ、有給休暇も民間企業に比べて取得しやすいなど処遇に恵まれているイメージがあるのではないだろうか。
確かに給与水準は高い。総務省の「令和4年度地方公務員給与の実態」によると、地方公務員(一般行政職)の平均年収は約637万円。民間企業の平均年収458万円(令和4年度・国税庁調査)に比べて約179万円高い。地元に本社を置く事業体のなかでは、銀行、新聞社、テレビ局、電力会社などに準ずる水準だろう。
行政学が専門の神戸学院大学・中野雅至教授は、地方公務員の処遇をどう見ているのだろうか。中野氏は大和郡山市職員を経て労働省(当時)に入省し、新潟県庁総合政策部情報政策課課長などを務めたキャリアを持つ。
「もともと地方には雇用の場が少ないので地方公務員は良い就職先で、Uターンしてくる人にとっても地方公務員は人気の高い就職先である。地方に行けば行くほど、社会的地位、身分保証、給与水準の3つが揃っている職業は公務員しかなく、しかも市町村職員は県庁職員と違って単身赴任が少ない。身分保障は国家公務員法や地方公務員法に定められているので安定志向の人にとっては魅力だ」
昭和の時代から振り返ると、公務員の就職人気は民間企業の雇用情勢と大きく関係してきた。民間企業の雇用情勢が悪化すれば公務員人気が高まり、逆なら人気が低下してきた。現状は、2012年に始動したアベノミクスによる景気拡大に、少子高齢化にともなう労働人口の減少が加わって、民間企業の人手不足が慢性化している。中野氏は次のように説明する。
「最近は景気情勢というよりも人手不足が影響しているのか、公務員採用の環境が変化して、人事院のデータを見ても国家公務員の受験者が減っている。さまざまな理由が考えられるが、優秀な学生にとっては民間企業の労働条件の改善が大きい。民間企業は人手不足が続くなかで、第一生命保険が今年4月入社の初任給を32万円に引き上げるなど給与水準が上がっているが、公務員の給料は人事院勧告に基づいて国会審議を経るので簡単には上がらない。ところが今は奨学金を抱えている学生が多く、卒業後に返済していかなければならない。仮に私立大学の平均授業料を年間100万円とするなら卒業時に400万円の返済は重くのしかかる。そうなると金銭的なことを視野に入れざるを得ず、結果的に、民間企業(特に大企業)に比べて公務員の給料は安いように映る」