亡霊を幽霊と表現する人もいるが、それは亡くなった人への侮辱だ。彼らはその存在形態が異なるだけで、生き続けている。私たちはそれを薄々分かっているから、命日に追悼し、参拝するわけだ。決して古い時代の風習ではない。デンマークの王子ハムレットは亡くなった父親から「叔父クローディアスが父を毒殺し、王妃と結婚した」ことを教えられ、叔父への復讐を決意する。この有名な劇は亡霊の存在なくしてはあり得ない(無念な思いで亡くなった亡霊はこの世との繋がりをなかなか切れない)。

反ユダヤ主義を見ていくと、興味深い事実に突き当たる。例えば、ポーランドではユダヤ人はほとんど住んでいないが、反ユダヤ主義傾向が見られる。また、ロシア南部ダゲスタン共和国の首都マハチカラの空港で昨年10月29日、群衆が空港に殺到し、飛行機から降りた乗客を取り囲み、ユダヤ人と分かれば暴行するなどの事態が起きた。空港内の暴動を放映した西側のメディアは、「まるで21世紀のポグロム(ユダヤ人迫害)だ」と報じたほどだ。看過できない事実は、タゲスタンはイスラム教徒が大多数で、ユダヤ人はほとんど住んでいないが、反ユダヤ主義はどこの場所よりも強いのだ(「タゲスタンの反ユダヤ主義暴動の背景」2023年11月1日参考)。

別の例を挙げてみよう。ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は外国人排斥、反移民政策を掲げて連邦議会、州議会でその勢力を伸ばしているが、AfDが急伸する東部州(ザクセン、ブランデンブルク、メクレンブルク=フォアポンメルンなど)では西部州より移民率が低い。西部州の都市では20%から30%の移民率だが、東部では都市部を除き、移民率は5%以下のことが多く、地域によっては2~3%と非常に低い。

すなわち、ユダヤ人が周囲にほとんどいないか、あまりいないのに、反ユダヤ主義が強いように、外国人は少ないエリアで反外国人、反移民の声が根強いのだ。さまざまな理由が考えられるが、反ユダヤ主義、反移民の背後には、人口論的な統計によるものではなく、歴史的な要因が推測できるのだ。