ストレプトマイセス属から作られるストレプトデプシペプチドP11AとP11Bという化合物は、脳腫瘍の成長を遅らせる効果が確認されました。
これらの物質は、がん細胞の代謝酵素に作用し、細胞増殖を止めて細胞死を引き起こします。
なんと、海洋微生物が脳腫瘍の進行まで抑えてくれるのです。
また、シアノバクテリアという藍藻(ラン藻)も見逃せません。
これらのバクテリアは、光合成によってエネルギーを生成しながら、強力な抗菌、抗ウイルス作用を発揮する化学物質を生み出しています。
黄色ブドウ球菌に対する増殖の阻害作用や、ヒト免疫不全ウイルスの逆転写酵素を阻害する物質まで作り出せるのは驚きです。
特に、海洋シアノバクテリアからは、極めて低濃度でがん細胞の増殖を抑える新しい化学物質イエゾシドが発見され、抗がん剤としての使用も検討されています。
さらに、がん治療でも注目されているのが、海洋放線菌ミクロモノスポラ属が作るデプシペプチドのチオコリン。
これは、DNAポリメラーゼ-α(遺伝子情報を複製する酵素)を阻害し、がん細胞を攻撃する力があると考えられています。
また、西インド諸島バハマの深海で採取され、サリニスポラ属から作られた、サリノスポラミドAという化合物は、多発性骨髄腫、リンパ腫等の治療薬として実際に臨床試験中です。
これら海洋微生物が抗生物質だけでなく、未来の抗がん剤として使われる日も近いかもしれません。
これまでの研究では、抗がん剤として海洋微生物が作り出す新しい化合物は、限られた種類しか報告されていませんが、その可能性はまさに無限大です。
未開拓の海洋では、これからの研究次第で私たちがまだ想像もつかない新しい治療法や薬が次々と発見されるかもしれません。
まさに、深海に眠る「未来の医薬品の宝庫」と言えるでしょう。