多くの薬は、植物が生み出す物質を基に開発されてきました。

サリチル酸はその代表的な例で、柳の皮から抽出され、アスピリンの原料となりました。

また、ケシからはモルヒネが、キナの木からはマラリア治療薬のキニーネが作られました。

これら植物は自らを守るために多種多様な化学物質を生成しています。

また、自然界に多く存在する放線菌と呼ばれる微生物でも同様で、細菌や他の微生物から自分を守るために抗生物質を作り出しています

人間はこのような特性を利用して、自然界から多くの抗生物質を開発してきました。

では、海の中の微生物はどうでしょうか。

広大な海の中には、私たちがまだ十分に解き明かしていない驚くべき秘密が隠されています。

それは、海洋微生物が生み出す「天然の生理活性物質」です。

この生理活性物質は、生体内で生理作用を調節したり、影響を与えたりする物質です。

特に海の微生物は、陸上の生物以上にユニークで強力な化合物を作り出す力を持っています。

海の微生物が特別なのは、極限状態で生き延びるための進化を遂げた結果です。

海洋放線菌と呼ばれる微生物は、想像もつかない特異な化学物質を作り出す力を手に入れました。

深海では、高圧、極寒、高塩分、酸性環境、さらには栄養分が少ない過酷な条件が日常茶飯事です。

そんな場所で生き延びるため、微生物たちは特別な「代謝物」を作る必要がありました。

その中には、抗菌作用や抗がん作用など、医薬品としての可能性が秘められています。

タイ王国のKing Mongkut’s University of Technology North Bangkok による論文については、2024年1月8日付の『Frontiers in Microbiology』に掲載されています。

目次

  • 有効な抗生物質を作り出す海洋微生物
  • がんの増殖も抑え込む海洋微生物のパワー
  • 海洋微生物がもたらす未来

有効な抗生物質を作り出す海洋微生物