■20年余の長期政権の弊害

そうなったのは、20年にわたるプーチン長期政権の下で、FSBも大統領が喜ぶような情報しか伝えなくなったのであろう。ウクライナは、2014年にクリミアをロシアに奪われてから、アメリカの援助で軍を近代化した。そのことがきちんとプーチンに伝えられていたのかどうか。

ロシア軍の侵攻に対して、ウクライナ軍は頑強に抵抗し、今や反転攻勢に出るまでになっている。また、西側諸国が戦車や戦闘機も含む大量の武器支援を行っている。そのような事態を予測することなく、ウクライナ軍が直ぐに屈服してゼレンスキー政権が崩壊するという見通しをFSBはプーチンに伝えたのであろうか。

■「見通しの甘さ」生んだ主因

トップが嫌がるような情報であれ、伝えるのが諜報機関の責務である。その情報を採用するかどうかは、トップの判断である。可能性としては、(1)FSBは「頑強なウクライナ軍とNATOの支援」という情報を上げていたのにプーチンが無視した、(2)そもそもFSBが楽観的な情報しか上げていなかった、という二つがある。いずれが真実かは分からない。

もし(1)であれば、プーチンの政治指導力に黃信号が灯り、反プーチン勢力がシロヴィキの中から出てくるかもしれない。しかし、(2)であれば、ロシアの戦争遂行能力が大きく低下することを意味する。ウクライナ戦争の展開を見ていると、(2)である可能性も捨て切れないのではあるまいか。