■相手を徹底的に調査し、弱みを握る
KGBは、敵のことを調べ尽くして、その弱みを握り、脅迫する。これがプーチンの手法である。2000年に大統領に就任するや、シロヴィキ(治安・国防・情報機関の人材)を動員して、オリガルヒ(新興財閥)の財務状況を徹底的に調査した。そして、税法違反などの違法行為を指摘し、脅迫するが、それでも自分の軍門に下らない者は、次々に逮捕したり暗殺していっている。新興大富豪のボリス・ベレゾフスキー、ミハイル・ホドルコフスキーなどが典型的な犠牲者である。
また、事件をでっち上げるのも常套手段である。エリツィン大統領下で、プーチンは1999年8月に首相に就任するが、その直後に、モスクワを始め各地で高層アパートなどが連続爆破される事件が起こり、300人以上もの犠牲者が出た。
そこで、プーチンは、チェチェンの首都グロズヌイを無差別爆撃し、地上部隊による侵攻も開始した。それによって、「強いリーダー」を演出し、名声を獲得したのである。
ところが、後にイギリスに亡命した元KGB/FSB(連邦保安庁、KGBの後継組織)のアレクサンドル・リトビネンコが、「連続爆破事件はFSBの自作自演だった」と暴露した。このリトビネンコも、亡命先のイギリスで放射性物質ポロニウム210を盛られ毒殺されている。
■戦争は嘘の応酬
戦争のときには、交戦国は軍事のみならず、外交、経済など様々な分野で敵を追い詰めようとする。情報戦もそうである。SNSが発達した現代では、とくにその傾向が強い。分かり易く言えば、「嘘の応酬」である。
今展開しているウクライナ戦争も、ウクライナとロシアのどちらの言うことが正しいかは分からない。ウクライナの応援団の西側とロシアの応援団の中国などの主張も、どこまでが本当で、どこまでが嘘かは不明である。
ところが、日本人は、「ロシアの言うことは100%嘘、ウクライナの言うことは100%真実」とナイーブにも信じ切っている。それは、ロシアの嘘のつき方が余りにも下手くそだからでもあるが、巧妙な英米やウクライナの情報操作に簡単に引っかかってしまう。
両国とも敵陣にスパイを多数送り込んでいる。スパイは単に相手の情報を収集するのみならず、嘘の情報を拡散することもする。問題は、その諜報要員の質である。
昨年の2月24日にウクライナへの軍事侵攻を命じたプーチンは、数日のうちにキーウを陥落させ、ゼレンスキー体制を崩壊させ、傀儡政権を樹立するという計画だったはずだが、その目論見は外れてしまった。