しかし唇は一度損傷してしまうと復元が非常に難しい部位です。その原因の1つが、唇は細胞自体が特別だという点にあります。
唇の細胞はまだ完全に理解されておらず、デゲン氏も「これまで、唇の外傷や感染症の治療法を開発するためのヒト唇細胞モデルが不足」していたと指摘しています。
また皮膚細胞とは異なり、ドナーから唇細胞を入手することも難しく、唇の細胞は研究が難しい分野だったのです。
それでも最近、デゲン氏ら研究チームは、それら唇の課題を解決する新たな道を開くことに成功しました。
唇細胞の培養に成功!新たな治療法の研究に役立つ!
ヒトの生体組織から直接採取された細胞は、「初代細胞(Primary Cell)」と呼ばれ、研究のための優れたモデルとなります。
しかし、初代細胞は入手や維持が難しく費用がかかります。
しかも寿命が限られており、最終的には分裂が停止するため、利用し続けることができません。
では、唇細胞のように、初代細胞を簡単に入手できない場合はどうすればよいでしょうか。
この問題を解決される方法が、細胞の不死化です。
これは、初代細胞の分裂回数の限界を決める遺伝子の発現を変更することで、細胞が無限に増殖し続けるようにすることであり、その細胞は「不死化細胞」と呼ばれます。
細胞の不死化と言われるとがん細胞をイメージする人もいるかも知れません。
しかしこうした研究では、主に安定した細胞株を作り出して長期の研究を可能にすることが目的であり、制御された不死化であるため、がん細胞とはまったく異なるものです。
そこで今回、デゲン氏ら研究チームは、唇の細胞を不死化する方法を開拓することにしました。
彼らは唇の損傷を治療している患者2人から提供された唇細胞を使用しました。
そして細胞の分裂回数の限界を決める遺伝子を不活性化し、細胞のテロメア(染色体の末端部にある構造)の長さを変更することで、唇細胞を不死化することに成功したのです。