唇を使ってコミュニケーションを取ることもあるのです。
哺乳類の赤ちゃんが母乳を上手に吸うことができるのも、唇があるからです。
しかし、サルやゴリラには人間のような赤い唇(毛細血管の血液が透けた色)がなく、人間ほど粘膜が露出するまで外側にめくれていません。
これらを考えると、人間の唇は、動物たちの中でもかなり特殊だと分かります。
そして人間の唇は、人間の他の皮膚と比べても異質な部位です。
唇は角層(表皮の最表面にある細胞の重なり)が非常に薄く、ほとんどの皮膚に存在する皮脂を分泌する「皮脂膜」や、汗を分泌する「汗腺」がありません。
また唇の内部には複数の組織が存在しており、唇全体を口の字状に囲む「口輪筋」によって、唇をすぼめたり引き締めたりすることが可能になっています。
さらに唇には多くの血管と神経が集まっており、これが唇特有の赤色を作り出したり、非常に敏感な触覚を生み出したりしています。
こうした構造は、人間の唇に、他では見られない重要な役割を与えています。
例えば、飲食の際に、唇を閉じて口から食物が出ないようにしたり、水分を吸いやすくしたりできます。
そして唇はコミュニケーションにも欠かせない存在です。
言語においては、「ぱ」行や「ま」行を発音する際に唇が必要であり、唇の形を変えることで表情を作り出し、様々な感情を伝えることができます。
さらに人間同士の唇の接触(キス)は、愛情を確認し合う行為として重要な意味を持ちます。
なにより、唇は顔の中でも非常に目立つ部位であり、「美と健康の象徴」としても見られています。
それゆえデゲン氏は、「この組織に欠陥があると、外見が著しく損なわれているように見られてしまう」と述べています。
実際、唇の一部が失われたり、大きく腫れてしまったりした人は、自分の外見に自信を持てなくなる場合が少なくありません。