ガブリエル教授は「資本主義社会の会社は最大限の利益を目指してその経済活動を展開するのは当然だ。ただ、その目的は買い手、消費者にとって多くの良きことを提供するためにあるべきだ。だから、企業の中に会計部門があるように、会社の価値観を明確に管理する倫理部門を創設すべきだ」と述べている。

ガブリエル教授の発言で興味深い点は、「資本主義が救済されれば、民主主義も救われる」という箇所だ。資本主義社会では、不平等な富の配分や格差から雇用問題まで多くの問題が生じているが、それを受け、民主主義という政体も揺れる。民主主義の危機が叫ばれて久しいが、それは同時に資本主義の危機を意味してきたわけだ。ガブリエル氏の見解では、資本主義が癒されれば、民主主義社会も改善されるというわけだ。

ガブリエル氏は「われわれは今、新しい社会契約が必要だ。経済的、道徳的価値を新たに宣言する新しい啓蒙が必要となってくる。良き経済活動は単に利益の最大化ではなく、社会、国家の諸問題への解決策を提示するものでなければならない」というのだ。

3頁余りの会見記事だから、ガブリエル教授の”倫理資本主義、道徳経済”の全容を理解するのには無理があるかもしれないが、1980年生まれの若いドイツ人哲学者の指摘は新しいものではないが、とても啓蒙的だ。

ガブリエル教授のインタビュー記事を読んでいると、同じシュピーゲル誌が2015年8月、オーストラリアのメルボルン出身の哲学者ピーター・シンガー氏(Peter Singer)とインタビューしていたことを思い出した。シンガー氏はその中で、Altruism(利他主義、独Altruismus)の新しい定義を語っていた。タイム誌で「世界で最も影響力のある100人」の一人に選ばれたシンガー氏は「効率的な利他主義」を唱えている。主張だけではない。同氏自身、所得の30%から40%を貧困者救済のために活動する団体に献金している。