シンガー氏は、「利他主義者は自身の喜びを犠牲にしたり、断念したりしない。合理的な利他主義者は何が自身の喜びかを熟慮し、決定する。貧しい人々を救済することで自己尊重心を獲得でき、もっと為に生きたいという心が湧いてくることを知っている。感情や同情ではなく、理性が利他主義を導かなければならない」という。シンガー氏によれば、利他主義者は犠牲も禁欲も良しとせず、冷静な計算に基づいて行動する。一般的な利他主義とは異なっている。同氏が主張する“効率的な利他主義者”は理性を通じて、「利他的であることが自身の幸福を増幅する」と知っている人々だ。「人間が純粋に理性的な存在だったら、われわれ全ては利他的な存在だったろう。理性的ではないため、利己主義と利他主義の間に一定の緊張感が出てくるわけだ」と言い切っている。

シンガー氏の「効率的利他主義」、そしてガブリエル氏の「倫理資本主義」という見解は、価値観が混迷としている現代社会で新鮮なインパクトを与える。当方は、「人間は全て狼」とみる英国の哲学者トマス・ホッブスの人間観より、「他者の為に生きることが自分の幸福につながる」と確信するシンガー氏の利他主義やガブリエル氏の倫理資本主義に心の安らぎを感じる一方、両氏の確信を羨ましく思う。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。