全日本空輸(ANA)の元客室乗務員(CA)、多喜富美江さんが9月、東京都内で記者会見を開き、10時間近い勤務のなかで10分程度の休憩しかないと語り、「在職中は、みんな疲れを引きずって働き、体を壊している人もいた」と訴えた。客室乗務員の共同労働組合・ジャパンキャビンクルーユニオン(JCU)の木谷憲子委員長によれば、ANAでは国内線と国際線の乗務あわせた6日連続勤務や、米国への便などで現地宿泊が1泊のみの乗務があるという。当サイトは10月13日付記事でこの事案について報じていたが、ANAに見解を聞いた。

 JCUによれば、CAは10時間近い労働時間で休憩がほとんど確保できないこともあるという。JCUは以下を主張する。

「航空機に乗務中はもちろん、35~50分ほどの地上ステイタイムもCAは業務に追われており、食事をとる時間がないことも少なくありません。ですが会社側は、ステイタイム中は事実上の休憩にあたるので法律を遵守して適切な運用を行っているとの主張を繰り返しています」

 また、10月13日付当サイト記事ではJCUへの取材に基づき次のように報じていた。

「ANAは航空機が到着してドアを開いた時から出発のためドアを閉めるまでのステイタイムは『休憩に代わる時間』(みなし休憩)に該当すると主張しているが、実態としては、ステイタイム中のCAは旅客降機のサポート、忘れ物チェック、次便の出発準備、旅客搭乗サポートなどの業務に追われ、座って休む時間はほとんど取れない」

 これについて、ANAは次の見解を示す。

「客室乗務員の休憩の取り扱いは、労働基準法第34条ならびに施行規則第32条に沿って適切に対応しております。具体的には、施行規則第32条第2項に『勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第三十四条第一項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。』とあります。客室乗務員でいえば、勤務中における『出社してから乗務を開始するまでの時間』『便間のステイタイム』『乗務を終了してから退社するまでの時間』の合計がこれを充足していますので、休憩時間を設けておりません。記事では『ANAは同条項について独自の解釈を行い、法律を遵守して適切な運用を行っていると主張しているのだ。』となっていますが、『独自の解釈』ではなく、労働基準監督署からも『法的に問題はない』との見解も頂いております。

 もちろん、法的に問題ないからといって勤務の状況を顧みないわけではなく、客室乗務員全員へのiPadの貸与をはじめ、業務の効率化を進め、客室乗務員の負担軽減にも取り組んでおります。また、記事では『全日本空輸(ANA)が客室乗務員(CA)を休憩なしで10時間近く働かせたり、9時間近い勤務中に8分しか休憩させていないという実態が明らかになった。』となっておりますが、実態面でも、そういった状況は常態化しておりません」

JCUの見解

 JCUは次の見解を示す。

「ANAは労基署から『法的に問題はない』との見解を得ているとしていますが、多喜さんが直接、労基署の監督官から報告された内容は、

(1)労基法ではグレイであり、白だとも黒だとも言えない
(2)しかし働き方改革の観点からして問題があるため、ANAを指導する

というものでした。労基法では『グレイ』というのが淀川労基署の見解であり、ANAの言う『法的に問題はない』という解釈は正確ではなく、『白だとも黒だとも言えない、つまり問題があるともないとも言えない』が多喜さんが労基署から言われた内容なのです。しかし、私たちJCUは、法的にグレイだという淀川労基署の見解には疑問を持っています。労基署が職場に調査に入ったという報告がなく、どこまで職場実態を把握したのかが不明だからです。

 また、ANAが労基法に違反していないと主張する拠り所として『労働基準法 関係諸規則の詳解』(昭和22年)があり、この中には以下の記述があります。

『乗務時間に比して精神的肉体的に緊張度の低いと認められる時間の合計が、法第34条第1項規定による休憩時間に相当する場合、すなわち労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上これらの時間があるときは、法第34条の規定による休憩時間を与えなくてもよいこととされている』

 ここだけを読むと、単に『緊張度の低い時間の合計が、法第34条の休憩時間に相当する場合は法第34条の規定による休憩時間を与えなくてもよい』ということになります。しかし、それに続く説明として、以下の記述があります。

『これによって、実質的に休憩する時間があり、法第34条の規定による休憩を与えなくても、過度の労働を強いることになるものとは考えられないからである』(同書P.166より)

 この記述からも、食事する時間もなかなか取れないような忙しいステイタイムを、休憩に代わる時間と言うことには無理があり、詭弁であるといえます。また、労基法の遵守だけではなく、疲労リスク管理や、企業の社会的責任の観点からも客室乗務員に休憩を与えようとしないANAの対応は問題があります。

 ちなみに日本航空(JAL)では、2014年に客室乗務員組合の有志が休憩時間を求めて都内の労基署に申し立てた際、労基署からの実態調査と組合との交渉を経てアジア路線のミールチョイスサービスを単一のミールサービスに変更し、サービス後に休憩を取れるように改善しました。また、国内線は1日3便までの乗務に制限されています。休憩問題以外でも、JALにはANAのような6日間連続勤務はなく、基本的に連続勤務は4日までになっています。

 ANAが『客室乗務員(CA)を休憩なしで10時間近く働かせたりすることは常態化しておりません』と言っているそうですが、常態化しているからこそ多喜さんはJCUに加入し5回の交渉を行ったのです。しかしANAは誠実な交渉を行わなかったため、9月2日に東京都労働委員会から不当労働行為救済命令が出された経緯があります」

●参考

・労働基準法 第34条
使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

・労働基準法施行規則 第32条
【一項】使用者は、法別表第一第四号に掲げる事業又は郵便若しくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶又は航空機に乗務する機関手、運転手、操縦士、車掌、列車掛、荷扱手、列車手、給仕、暖冷房乗務員及び電源乗務員(以下単に「乗務員」という。)で長距離にわたり継続して乗務するもの並びに同表第十一号に掲げる事業に使用される労働者で屋内勤務者三十人未満の日本郵便株式会社の営業所(簡易郵便局法(昭和二十四年法律第二百十三号)第二条に規定する郵便窓口業務を行うものに限る。)において郵便の業務に従事するものについては、法第三十四条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。
【二項】使用者は、乗務員で前項の規定に該当しないものについては、その者の従事する業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第三十四条第一項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。

 JCUは上記について以下のように説明する。

「『労働基準法施行規則 第32条 一項』は、長距離にわたり継続して乗務するものが該当し、具体的には『6時間以上の乗務』(中・長距離国際線)とされています。また、同条『二項』は、6時間未満の乗務、つまり国内線・近距離国際線の乗務が該当します。ここでは、『労基法34条に規定される飛行機を離れられる自由時間である本来の休憩時間』を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第34条で規定する休憩時間(労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間)に相当するときは、同条の規定にかかわらず、(34条の)休憩時間を与えないことができる、とされています。

 つまり、飛行機から離れられる自由な休憩時間を与えることができない場合は、せめて機内で身体を休める時間が必要だということです。JALやソラシドエアなど他の航空会社は、この考えに立って対応した経緯があります。しかしANAは、機内で身体を休める時間は必要ないとの対応を、いまだに変えようとしません。健康被害も多く、早急に改善が必要です」