ちなみに、日本は戦後、サンフランシスコ平和条約(1951年)に基づいて戦後賠償問題は2国間の国家補償を実施して完了済みだが、第1次、第2次の2つの世界大戦の敗戦国となったドイツの場合、過去の賠償問題は日本より複雑だ。ドイツの場合、国家補償ではなく、ナチス軍の被害者に対する個別補償が中心だからだ。ドイツにとって過去問題は政治的にはフランスとの関係だが、損害賠償問題はバルカン諸国や旧東独諸国で常にくずぶってきた厄介なテーマだ。

<当方の呟き> 戦争賠償請求に時効というものがないのだろうか、と考えることがある。被害国は加害国に対して「歴史の公平」、「民族の公平」を掲げて賠償請求する。国際法からみれば当然かもしれない。ところで、被害国でありながら、加害国に賠償請求をしなかった国が過去、一国ある。蒋介石(しょうかいせき)率いる中華民国政府だ。その背景にはいくつかの政治的、戦略的な理由(台頭してきた共産主義を阻止する)もあったが、蒋介石は「徳をもって怨みに報いる」(「以徳報怨」)という儒教的な価値観を有していたといわれる。日本は蒋介石に感謝しなければならない。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。