子供が帰ってきた父親にキスをするのも普通ですし、宗教的な意味合いで、相手の指輪や足、あるいは聖書にキスをすることもあります。
このように人々は日常的にキスをしていますが、意外にもキスの行為がいつ、どのように誕生したのかは解明されていません。
一応、これまでにキスの起源に関する幾つかの仮説は提示されています。
1つは乳児の授乳行動に伴う「吸う」という動作からキスが生まれたとする説や、大人の養育者があらかじめ咀嚼して飲み込みやすくした食べ物を乳児に口移しで与える中でキスが生まれたとする説。
他にも、キスを通じて潜在的なパートナーと唾液中に含まれる微生物叢を交換することで、相手の遺伝的な健康状態やお互いの生物学的な相性を本能的に測る方法として発生したとする説などがあります。
しかしこれらは証拠の希薄な仮説として、あまり専門家らの賛同は得られていません。
そこで本研究主任のアドリアーノ・ラメイラ氏は一度人間から目を離し、動物界にキスに相当する行動を取っている種がいるかどうかを調べてみました。
ここでラメイラ氏は、キス行動について「唇を相手の唇あるいは体に接地させて吸い付く動作」が基本要素と含まれていることと定義しています。
その上で調べてみると、例えば犬猫を含む多くの動物はナズリングといって、鼻を仲間や飼い主に押し付ける行動はよく取っていましたが、キスまではしていませんでした。
キスに相当する行動を取っていたのは、わずかにチンパンジーとボノボだけです。
この2グループは遺伝的に最もヒトに近い類人猿として知られています。
これを踏まえてラメイラ氏は、キスがチンパンジーとボノボを含む類人猿の祖先の「毛づくろい」から進化したとする新説を立てました。