これについては、株式会社札幌ドームには、約22億円の利益剰余金があるため、当面はそれを充てることで赤字に対応するものと受け止めています。

しかし、当初の収支計画では2024年度からの黒字化を見込んでおりましたが、このまま多額の赤字が続いて利益剰余金が底をついた時には、やはり札幌市が税金で赤字を補填(指定管理費を支出)することになるものと懸念するところです。

そもそも、札幌ドームの所有者は札幌市であり、指定管理者の維持管理費とは別に、札幌市が所有者として、既に税金で負担している費用があります。

具体的には、2022年度では、保全事業費6億5,700万円、市債償還11億7,000万円、市債の支払利息3億7,000万円等で、合計すると20億円以上にものぼります。(総事業費537億円、市債残高は2023年度時点で約61億円)

特に、今後は施設の老朽化に伴い、保全費はますます増大することも予想され、2024年度予算では札幌ドーム保全費として9億7,900万円が計上されています。

2.「6大ドーム」との比較から見る札幌ドームの現状

多くの公共施設が赤字である中、なぜ札幌ドームの赤字にだけ注目が集まるのか。

施設規模の大きさゆえの「赤字額の大きさ」も1つの要因ですが、いわゆる「6大ドーム」と言われる他のドーム(東京ドーム、大阪ドーム、ナゴヤドーム、福岡ドーム、埼玉の西武ドーム)が、いずれも民間事業者による所有と経営で成り立っており、自治体からの財政負担に依存することなく、その営業利益の中から、保全・維持管理費も含めて、民間事業者が賄っていることも大きな要因ではないでしょうか(図表2)。

(1)第三セクターによる管理運営で失敗した「大阪ドーム」

6大ドームの中で、札幌ドームと同様に、過去に「自治体による所有」と「第三セクターによる管理運営」で失敗に至ったのが「大阪ドーム」の事例です。

大阪ドームは、1997年の開業当初は大阪市が所有しており、大阪市が20%以上出資する第三セクター「株式会社大阪シティドーム」が指定管理者として管理運営を行っておりました。

しかしながら、第三セクターによる杜撰な経営の結果、株式会社大阪シティドームは2005年に会社更生法適用を申請し、事実上の経営破綻となり、建設費498億円の大阪ドームを、90億円で民間事業者が買収する結果となりました。

一見すると、大阪市は大きな資産を失ったようにも見えますが、ドームを手放したことにより、大阪市は保全・維持管理に伴う永続的な財政負担から解放されるとともに、第三セクターから民間事業者に経営が移った大阪ドームは、黒字経営となって現在に至ります。

(2)なぜ札幌ドームにだけ「ドームツアー」が来ないのか

第三セクターによるドーム経営に限界を感じる1つの象徴的な事象として、「ドームツアー」が挙げられます。

多くのアーティストが、「ドームツアー」と称して全国各地でコンサートツアーを行っていますが、この「ドームツアー」の中に、なぜか札幌ドームだけが含まれていない場合が多く、非常に残念だという市民の方の声をお聞きするところです。

なぜ札幌ドームにだけ来てくれないのか。

数多くの男性アイドルグループが所属する大手事務所に伺ったところ、「ドームツアー」は機材搬入のためにトラック100台体制で全国を回るそうですが、札幌ドームでの開催となると、どうしてもフェリーによる輸送が必要となるため、採算が合わないとの事情でした。

そして、ドームの利用料金次第では、札幌ドームでの開催も検討できるとのことでした。

札幌市の地理的な不利要素は、やむを得ない事情ではありますが、しかし今、プロ野球が無くなった札幌ドームにとって、コンサート利用は大きな収益の柱であり、民間の経営感覚からすれば、柔軟な利用料金の中で、あらゆる営業努力や企業努力があって然るべきかと思います。

一方で、札幌ドームの利用料金は、「条例」によって定められているため、民間企業のような柔軟な対応が難しい現実があり、このことからも、やはり現状の管理運営体制には限界を感じるところです。

3.現行の「指定管理者制度」から「コンセッション方式」へ

以上のような限界を踏まえて、厳しい経営状況を打開するため、所有権を札幌市に残した上で、現行の「指定管理者制度」よりも、施設の改修・更新や利用料金設定について、より民間事業者の裁量範囲が大きい「公共施設等運営権制度(コンセッション方式)」の導入による「民間活力」の活用を提言します。

「コンセッション方式」は、スポーツ施設、高速道路、空港、上下水道などの料金徴収を伴う公共施設などで導入されており、下水道では静岡県浜松市、空港では北海道内7空港などで既に導入されています。

スポーツやコンサート、各種イベント等で利用される公共施設での導入事例としては、東京都の「有明アリーナ」や愛知県の「愛知県新体育館(IGアリーナ)」が挙げられます。

「指定管理者制度」と比較して、「コンセッション方式」の利点は大きく次の4点です(図表3)。

第1に、管理運営する期間が20年以上と長期である点です。

「指定管理者制度」では、期間が5年程度(札幌ドームは5年)と短い場合が多いのに対し、「コンセッション方式」では20年以上が一般的(有明アリーナは25年)です。

長期で管理運営できるため、民間事業者による戦略的な投資や創意工夫の余地が大きいとされます。

第2に、建物の改築・更新についても、業務の一環として実施可能である点です。