それが終わると次に、仮想の音響ナビゲーションタスクをコンピューター上で行いました。
ここでは下図のような6つの仮想迷路を使います。(長方形の四角がスタート地点で、黒い波線がゴール地点です)
参加者は迷路が見えない状態のまま、現在地で聞こえる反響音を頼りにどのように進むかをキーボード選択で行います。
キーボードの詳細は下図の右側の枠内に示されており、例えば、「W」を押すと現在地から一歩前に進み、「S」を押すと現在地から一歩後ろに下がります。
被験者は迷路の壁にぶつからずに進めるよう訓練しました。
その結果、わずか10週間のトレーニングで、目の見える健常者と盲目の視覚障害者の両方においてエコロケーションのスキルが向上し、反響音だけで物体のサイズや角度を当てたり、壁にぶつからずに迷路をクリアできるようになったのです。
また被験者には21歳から79歳まで幅広い年齢層の方々が参加していましたが、年齢による成績の差は見られませんでした。
これは年齢に関係なく、誰もがいつでもエコロケーションを習得できることを示唆します(ただし反響音を聞き取れるだけの聴覚は必要です)。
また視覚障害の被験者については実験から3カ月後に追加調査を行いました。
すると被験者はエコロケーションを日常的に使うことで日々の移動能力が改善したと実感し、さらには自立性や幸福感も向上したと答えていたのです。
音で周囲を「視える化」できるようになったことで、世界が今までより開けて感じるようになったことが関係しているのかもしれません。
さらにチームは重大な発見として、エコロケーションを習得した人々は、視覚障害者も健常者も含めて、反響音を聞くと脳内の視覚野が活性化し始めることを特定したのです。