そこで研究者たちはラン藻をシート状に加工し、海底熱水鉱床の近くに設置してどれだけ金が回収できるかを調査しました。

結果、シートには最大で約1トンあたり7グラム相当の金が吸着していることが判明。

また、銀についても、同様の方法で約1トンあたり140グラムと高濃度で吸着できることが確認されました。

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伊豆諸島青ヶ島沖水深700m 海底熱水鉱床の熱水噴出孔。研究では青ヶ島沖の熱水鉱床の噴出孔周辺にラン藻シートを設置し、金の吸着能力についての試験を約2年近くに亘って実施しました。 / Credit : エネルギー・金属鉱物資源機構公式サイト

さらに研究者たちは、ラン藻シートを用いた金の回収試験を「温泉」でも試みました。

金の鉱脈は、地中深くのマグマに含まれる金が熱水に溶け出し、長期間にわたって地表に露出し冷え固まったと考えられています。

一方で温泉もまたマグマに熱せられた熱水が湧き出る場所ですので、いくつかの点において温泉と海底熱水鉱床と似ています。

温泉は未来の金鉱山になり得るのでしょうか?

「温泉」での金の回収実験

温泉は金鉱山になり得るのか?

謎を解明すべく研究者たちはまず、国内の温泉に溶け込んでいる金の濃度を調べました。

熱水中の金の含有量が多ければ多いほど、回収できる量も期待できます。

すると酸性度が高く高温の温泉ほど、金が高濃度で存在することが判明します。

そこで研究者たちは酸性度の高さで知られる「秋田県の玉川温泉」で実験を行うことにしました。

玉川温泉は、世界でも珍しい塩酸が主成分の温泉で、そのpH値は1.2と食用酢やレモン汁よりもさらに強い酸性を持っています。

試験では、培養したラン藻シートに対して7か月間に渡り温泉の熱水を浴びせ続けました。

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玉川温泉におけるラン藻シートを用いた金の回収試験の手順。(a) バスケットの底面と側面にラン藻シートを装着、(b) 試験水槽にシートとバスケットを投入、(c, d) 水温60℃、pH1.2の温泉水を1時間当たり6m立法メートルの流量で通水、(e) 試験水槽で7ヶ月間の吸着実験後のシートの確認、(f) 沈殿物を水道水で洗浄後のシートの確認、を各々示しています。 /Credit : 野崎達生ら, Nature(2024)