日本周辺海域の海底熱水鉱床は、世界的にも比較的浅い水深に分布しており、開発には有利と考えられています。
実際、過去には幾つかの海底熱水鉱床から金を回収する取り組みが行われています。
たとえばパプアニューギニア沖での採掘では、金や銅などの貴金属を含む鉱床から金属を回収する技術(遠隔操作の掘削機や専用の輸送システム)が開発されました。
しかし技術的な課題やコストの問題、環境保護の懸念などが原因で進展が遅れ、計画が中断されることとなりました。
そこで新たな研究では全く別のアプローチが行われました。
ラン藻シートが金を吸着する
2015年、東京大学の研究チームは伊豆諸島の青ヶ島沖の水深700メートルの海底から、高温の熱水(約270℃)が噴き出す海底熱水鉱床を発見しました。
この熱水鉱床については、海中から採取された岩石から1トンあたり17グラム相当という高濃度の金を含むということが、以前の調査で確認されています。
ただ先にも述べたように、海底を掘削して金をとるのはコストがかかりすぎます。
そこで海洋研究開発機構とIHIの研究グループは、原始的な藻の一種であるラン藻を利用することにしました。
海底熱水鉱床から噴出する金のかなりの部分が、プラスに帯電した状態「金イオン」の状態で存在することが知られています。
(※金は安定した金属と言われていますが、のような高温高圧環境では硫黄や塩素と結合して錯体を形成します)
一方、ラン藻の細胞表面は、その細胞膜の成分である脂質やタンパク質に由来してマイナスに帯電しているため、プラスに帯電した金イオンが引き寄せられ、静電的に吸着されます。
他にもラン藻は、細胞外に多糖からなる高分子化合物(いわゆる海藻のヌメリ成分)を分泌していますが、このヌメリ部分も金のような重金属を吸着する性質があることが知られています。
また興味深いことに、重金属を吸着する性質はラン藻が死んだ後も維持されることがわかりました。