また被験者たちの死亡した年齢と比較すると、前頭前野へのミトコンドリアDNA断片が多い人は少ない人よりも早く死亡していたことが判明しました。
この結果から研究者たちは、ミトコンドリアDNA断片の蓄積が脳の老化や機能低下、寿命に関連している可能性があると結論しました。
共生がはじまった直後は、ミトコンドリアの先祖も自分自身のDNAを多く保持していました。
しかし、長年にわたる共生により徐々にオリジナルの遺伝子を手放していきます。
このような遺伝子のパージは共生生物や寄生生物に広くみられる現象です。
生命維持に必要な栄養素などを宿主に頼ることができるならば、それを自作するための遺伝子を持っていることにメリットがなくなってしまうからです。
そのため現在のミトコンドリアのオリジナル遺伝子数は37個、総塩基も1万6600文字まで減少してしまっています。
(※一方、宿主であるヒトDNAの塩基数は60億文字に達します)
今回の研究結果は、ミトコンドリアから人間へのDNAの移行が現在も活発に進行中であることを示していると言えるでしょう。
ストレスがミトコンドリアDNA断片の移行を加速させる
最後に研究者たちは、ミトコンドリアDNA断片の組み込みを加速させる要因を調べました。
もしどの細胞でも等しく起こるならば、前頭前野だけで断片が多くなる理由が説明できないからです。
研究者たちは手掛かりを得るために、長期に渡り培養されている人間の皮膚細胞を調査し、ミトコンドリアDNA断片の移行を促す要因を調べました。
すると培養細胞は通常ならば1カ月あたり数個のミトコンドリアDNA断片を蓄積していったものの、細胞のミトコンドリアがストレスによって機能不全に陥ると、4~5倍の速さで蓄積していったことが判明しました。