このような挿入された断片は核内ミトコンドリアDNA断片(NUMT)と呼ばれており、15~20億年前に共生が始まって以降、私たちの染色体内部に営々と蓄積され続けており、現在の私たちの染色体内部には、多くは先祖から受け継いだミトコンドリアDNA断片が何百個も存在しています。
ただ既存の研究では、このようなミトコンドリアDNA断片の移行は非常にまれだと考えられていました。
実際、新しいミトコンドリアDNA断片がヒトゲノムに組み込まれるのは4000回の出生につき1回程度だと考えられています。
親から子にミトコンドリア断片の移行が「遺伝」するには、生殖細胞内で移行イベントが起こらなければなりません。
さらにそのような移行に害があった場合、胎児の成長が失敗するなどして、排除されてしまいます。
多くの人々がミトコンドリアのDNA断片を抱えながら健康でいられるのは、挿入された断片の機能や挿入が起きた場所が無害だったからだと言えるでしょう。
ただミトコンドリアは生殖細胞だけでなく、全身の細胞に存在しています。
そのため遺伝に関係ない細胞(生殖細胞でない細胞)において、ミトコンドリアDAN断片の移行がどうなっているかは、あまり詳しくわかっていませんでした。
生殖に関係のない細胞であっても、脳細胞や肝臓の細胞は私たちの健康にとっては重要な細胞です。
そこで今回、ミシガン大学の研究者たちは、特に脳細胞をターゲットにして、ミトコンドリアDNA断片の移行がどれほど起きているか、そしてどんな影響があるかを調べることにしました。
前頭前野ではミトコンドリアDNAの挿入が頻繁に起きている
脳細胞ではどれほどのミトコンドリアDNA断片が移行しているのか?
答えを得るため研究者たちは、死亡した1000人以上の高齢者から脳サンプルを採取し、染色体内部に潜むミトコンドリアDNA断片の量を調べました。
すると、ミトコンドリアDNA断片の挿入は、人間の理性や認知にかかわる前頭前野のニューロンに最も多く起きていたことが示されました。