「バイシクルキックを含め、足を上げる行為はサッカーである程度認められていますが、周りに配慮しなければなりません。相手選手が(近くに)いるのが分かっているのに足を上げる、自分の足や足裏を相手に向けるというプレーについては、(審判員による)見極めが必要だと思います。ただ、お互いにボールへプレーした結果、足が相手の顔に当たって怪我に繋がることもあります。難しいという言葉で片付けてはいけないと思いますが、レフェリーにはそこのところ(事象のプロセス)を見なさいと言っています」
ハイキックの見極めの難しさが顕在化
佐々木は先述の試合で、浮き球を胸でコントロールした直後に左足でシュートを放とうとしている。佐々木のシュートと、ホイブラーテンのヘディングのどちらが先になるかが微妙なシーンでもあり、佐藤氏が判定基準として挙げた事象のプロセスを考慮すると、レッドカードではなくイエローカードに留めた飯田主審の判断は尊重されるべきだろう。
足を高く上げるプレー(ハイキック)の見極めの難しさは、2024シーズンのJ1リーグでも顕在化している。10月19日の第34節、湘南ベルマーレ対サンフレッチェ広島の前半アディショナルタイムには湘南FW福田翔生が敵陣ペナルティエリアでバイシクルキックを繰り出し、高く上がった同選手の足が広島DF佐々木翔の顔面をかすめる。この直後の湘南DFキム・ミンテのシュートがゴールマウスに吸い込まれ、山本雄大主審は得点を認めようとしたものの、ここでビデオアシスタントレフェリー(※1)が介入。オンフィールドレビュー(※2)の末、福田のバイシクルキックが反則と見なされ、得点が取り消された。
現行のサッカー競技規則では、「危険な方法でプレーすることとは、ボールをプレーしようとするとき、(自分を含む)競技者を負傷させることになるすべての行動であり、近くにいる相手競技者が負傷を恐れてプレーできないようにすることも含む。シザーズキックまたはバイシクルキックは、相手競技者に危険でない限り行うことができる」と定められている。前半終了のホイッスルとともに、場内(レモンガススタジアム平塚)の観客から山本主審へブーイングが浴びせられたが、競技規則の文言を踏まえるとビデオアシスタントレフェリー(VAR)の介入や山本主審の判定変更は正しいと言える。また、山本主審はVARから送られた映像を何度も見直しており、福田のプレーのプロセスの妥当性を熟慮している様子が窺える。危険なプレーの見極めの難しさを、サッカーに関わる全ての人々が理解する必要があるだろう。