話を現代に戻す。最近では、ロシアのプーチン大統領はウクライナの民族的主権を無視し、クレムリン前にキエフ大公の聖ウラジミールの記念碑を建てた。聖ウラジミールはロシアをキリスト教化した人物だ。クレムリンの前に聖ウラジミール像を建立するということは、ウクライナもロシアに属していることを意味する。そして軍事的侵攻を正当化してきた。プーチン氏は自身を聖ウラジミールの転生(生まれ変わり)と信じている。
ロシア正教会の最高指導者モスクワ総主教のキリル1世はウクライナ戦争勃発後、プーチン大統領のウクライナ戦争を「形而上学的な闘争」と位置づけ、ロシア側を「善」として退廃文化の欧米側を「悪」とし、「善の悪への戦い」と解説、ウクライナとロシアが教会法に基づいて連携していると主張し、キーウは“エルサレム”だという。「ロシア正教会はそこから誕生したのだから、その歴史的、精神的繋がりを捨て去ることはできない」と強調、ロシアの敵対者を「悪の勢力」と呼び、ロシア兵士に闘うように呼び掛けてきた。
プーチン氏とキリル1世の独自のナラティブ(物語)に対し、ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系、UOK)の首座主教であるキーウのオヌフリイ府主教は2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻を「悲劇」とし、「ロシア民族はもともと、キーウのドニエプル川周辺に起源を持つ同じ民族だ。われわれが互いに戦争をしていることは最大の恥」と指摘、創世記に記述されている、人類最初の殺人、兄カインによる弟アベルの殺害を引き合いに出し、両国間の戦争は「兄弟戦争(フラトリサイド)だ」と喝破し、注目を呼んだ(「分裂と離脱が続くロシア正教会」2022年5月29日参照)。
カインは弟アベルを殺害した。人類最初の殺人動機は「自分は愛されていない」という絶望からの感情暴発だった。不幸なことだが、同じことが、プーチン氏にもいえるのではないか。欧米諸国から支援を受けるウクライナへの強烈なライバル意識、経済的に繁栄する欧米諸国への憎悪だ。それだけではない。朝鮮半島での韓国と北朝鮮との戦もカインとアベル、エサウとヤコブの兄弟戦争と受け取ることができるのだ。