そして昏睡から覚醒に至るには、外部および内部の刺激による脳活動の再活性化も重要だと考えられます。
脳は音や光、触覚といった外部刺激や、ホルモンバランスの変化や代謝機能の回復といった内部刺激によっても影響を受けています。
昏睡患者の脳がこうした刺激を何らかの形で認識し、それがトリガーとなって意識の覚醒を促すことがあるのです。
まとめると、昏睡患者が何の前触れもなく突如として目覚めるのは、脳組織が意識を保てるレベルまで自己修復しており、何らかの刺激によって脳機能が再活性化されたことが要因と考えられます。
一方で、こうした「脳の自己修復」や「刺激による再活性化」はいずれも、患者自身の生命力に頼るか、偶発的な出来事に頼る側面が強くあります。
そこで研究者たちは以前から、人為的に昏睡患者を覚醒させる治療方法の開発を進めてきました。
今現在、その効果が期待できる有望な治療方法をいくつか見てみましょう。
人為的に昏睡から目覚めさせる治療方法とは?
まず最初に挙げられるのが脳内のドーパミン量を増加させる薬剤「アマンタジン」の投与です。
パーキンソン病の症状改善のためにも使用されるアマンタジンは、ニューロンから放出されるドーパミンの量を増加させる働きがあります。
ドーパミンは脳内ネットワーク間の情報伝達に不可欠な物質であり、ドーパミン量を増やすことで脳の再活性化が促されるのです。
脳の再活性化は意識の回復につながります。
実際に過去の研究でも、昏睡状態にある患者はドーパミン量が少なくなっていることがわかっており、2012年には外傷性脳損傷で昏睡状態にあった患者にアマンタジンを投与した結果、意識の改善が見られたケースが報告されていました(New England Journal of Medicine, 2012)。
そしてもう1つの方法は「脳深部刺激療法」です。
これは昏睡患者の脳深部に外科的に電極を埋め込み、少量の電気刺激を与えながらニューロンを再活性化するというもの。