■先祖直伝:地震前に確認された動物たちの異常
- 「雉(キジ)が鳴く(騒ぐ)と地震が起きる」(岩手県奥州市)
地震学者の故・力武常次博士が収集した1978年の伊豆大島近海地震(M7.0)では、地震の24分前に、山梨県甲府市でキジ400羽が一斉に鳴くという前兆が確認された。この伝承の説明として、「科学的な根拠はないが、実際の経験則による。雉は、地面に生息することが多く、地面の揺れを敏感に感じとる」とあるが、キジの足にはヘルベスト体という震動に敏感な感覚細胞があり、人体では感じることができない微動を察知していた可能性もある。
- 「ネズミは大地震の前になると家の中から居なくなる」(宮崎県東臼杵郡)
ネズミは昔から人間の家屋を棲家としてきたため、たくさんの前兆例が伝えられている。阪神・淡路大震災の前兆報告を集めた『前兆証言1519!』(東京出版)では、獣類の報告のうち実に25%、80件近くの報告があった。民家の天井裏で異常に騒いだり、逆にいなくなって静かになった例などが多い。同書の事例を集計すると、いなくなった事例では地震から1カ月~2週間ほど前のケースが最多、騒いでいた事例では地震の2~3日前のケースが最多だった。動物が集団でいなくなり、別の場所に現れるのは、電磁波などの地震前兆を嫌い遠くへと移動するのではないか。
- 「やすで虫がたくさん落ちる時は地震あり」(神奈川県三崎地方)
ヤスデとはムカデのように多くの足を持つ節足動物で、ダンゴムシを長くしたような外見が特徴だ。2016年5月に台湾北東沖でM6.2の地震が発生した時は、1週間前に台湾・彰化県にヤスデの大群が出現していた。震源までの距離は約250kmで、東京から仙台ほど離れているが、前兆だった可能性は一概に否定できないだろう。
- 「ナマズがさわぐと地震がおこる」(愛知県豊田市)
ナマズは昔から日本では地震の代名詞とされ、地中の巨大ナマズが怒って地面が揺れた結果だと信じられていた。これは、先人たちが地震の前にナマズが騒ぐ様子を目にして想像した結果かもしれない。1946年の昭和南海地震(M8.1)の2週間前には、高知県の長浜川でナマズの大漁があったが、これは大地震の前によく見られる大漁の好例といえる。大阪大名誉教授の池谷元伺氏(故人)によると、ナマズは水中の電場変化に敏感だという。ウナギはより敏感だが、常に活発に泳いでいるため地震の前に暴れても(人間によって)気付かれにくいようだ。
- 「するめが多くとれた時は、地震に気をつけろ」(徳島県宍喰町)
「昭和南海地震のときそうだった」と付記されており、1946年に確認された現象だった。過去の記事で紹介しているが、高知県の中村不二夫氏が昭和南海地震の経験者である古老たちから聞き出した前兆現象をまとめた『南海地震は予知できる』(高知新聞社)でも、前兆例として地震の年にはスルメイカがよく獲れたとある。もともと日本では「イカの大漁があると地震が起きる」と古くから信じられており、長尾年恭・東海大教授も「興味深い現象で、毎日海に出ている漁師の証言なら、信ぴょう性が高いのでは」(読売新聞、2011年5月1日付)と語っている。