もう一つは、セブン&アイの企業価値を低下させる「焦土作戦※3)」としての効果である。
焦土作戦としての効果当然なのだが、持ち株「100%」の頃とくらべ、持ち株「15%」になれば、シナジー効果は低下する。これまでのような商品開発はできないし、ノウハウ共有もしづらくなる。
これをクシュタールがどう考えるか。
アクティビスト「バリューアクト」は、セブン&アイの商品に興味を示さなかった。シナジー効果は低く、セブンイレブン単独でプライベートブランド開発ができる、と断じていた。
クシュタールは違う。セブン&アイの商品そのものに強い興味を抱き、高く評価している。来日したクシュタールのブシャード会長は、セブンイレブン店舗で「たこの総菜」と「寿司」を買ったという。
「素晴らしい。品ぞろえの数は驚異的で価格設定も優れている」
クシュタール幹部インタビュー、7&i買収への本気度示す-一問一答 – Bloomberg
これらの商品が、イトーヨーカドーの恩恵を受けているとしたら? イトーヨーカドー売却により商品開発力が低下するとしたら? 買収意欲は大きく削がれることになる。
セブン&アイを熟知するクシュタールだからこそ有効な買収防衛策。「焦土作戦」となる可能性があるのだ。
アクティビストと事業者の違い先のバリューアクトが、セブン&アイ株式を保有したのは僅か「3年」だった※4)。
一方、クシュタールが、セブン&アイ買収を検討し始めたのは「20年前」。今回で3度目の買収提案となる。デューデリジェンス(企業の資産査定)は行っていない。これは極めて異例なことだ。セブン&アイの「価値」を高く評価していることがうかがえる。
今回、来日したクシュタールのミラー社長は、創業家である「伊藤家」とも話し合いたい、と語る。今後は、イトーヨーカドーの動向も注視しつつ、タフな交渉をもちかけてくるはずだ。その熱意は、アクティビストの比ではない。セブン&アイ経営陣が、短期的な株価上昇策だけにとらわれれば、深手を負うことになるだろう。