もちろんそんなことはまったくなく、先進国の平均寿命は82〜84歳程度。日本人の平均寿命は84歳で一応世界のトップクラスですが、日本は世界でも珍しい、「人生終末期の延命治療が数多く行われている国」ですので、その点で本当の健康が実現されているとはいい難いでしょう。
社会の医療化話を「小児医療無料化」に戻しましょう。
というのも、「医療のビジネス化」という部分は、慢性期医療や高齢者医療では顕著に差が出てきます(患者を増やすことは実際に出来てしまう)が、発熱や頭痛・腹痛など急性期症状が大半を占める小児外来において、「患者を増やす」ということは事実上不可能だからです。
では、無料化で「コンビニ受診」が増える? という疑問は杞憂なのでしょうか?
そこには更に「社会の医療化」という問題が顕在化します。
「社会の医療化」というのは、
これまで医療の対象ではなかった身の回りの問題が医療の対象となってゆくこと
です。
具体的にはこういうことです。
昭和の時代、サザエさんの家庭のように、おじいちゃん・おばあちゃんと同居の大家族。その状況では、タラちゃんのような小さな子が熱を出してもすぐには小児科に行かなかったのです。経験の豊富なおばあちゃんや近所の人たちがみんなで相談に乗ってくれ、超高熱の緊急時に病院に走ることはあっても、たいていの場合は自宅で様子を見ることができました。
今は3世代同居の家庭は少なくなりました。また、隣近所の人たちとの付き合いもかなり希薄になっています。仕事で忙しいパパは子どもの発熱まで気が回らないかもしれません。そうなるとお母さんは誰にも相談ができなくなってしまいます。いわゆるワンオペ状態ですね。こうなると、軽微な症状からすぐに病院へ、という傾向が強まっていきます。ワンオペで頑張っているお母さんにしてみたらこれは致し方ないことです。
一方、医療を提供する側の小児科開業医の先生も、その経営の基礎は「ビジネス」ですので、患者が増えることを歓迎します。