さらにチームは顕微鏡観察により、ホウボウの脚先がヒトの舌表面の味蕾と同じように、無数の乳頭突起で覆われていることを発見しました。
実証テストで、この乳頭突起が味の素となるアミノ酸に反応したことから、味蕾と同じく「味覚センサー」として働いていることが断定されています。
また別の証拠として、チームはホウボウの近縁種である「プリオノトゥス・エボランス(Prionotus evolans)」を調査。
本種にはホウボウとは違って、脚先で砂中に潜んでいる獲物を探し当てる能力がないのですが、実際に脚先を顕微鏡で観察したところ、乳頭突起もなくツルツルした表面になっていることが確かめられたのです。
さらにチームはホウボウの脚に「味覚センサー」が形成される遺伝的な秘密をも解き明かしました。
脚に「味覚センサー」が作る遺伝子を特定
チームがホウボウの遺伝子解析を行ったところ、「Tbx3a」という遺伝子が脚先の味覚センサーを形成するのに関わっていることは特定されました。
Tbx3aはホウボウだけでなく、ヒトを含む脊椎動物にも広く存在しており、四肢動物の手足の一部を作るのに関与していることが知られています。
続く実験で、野生のホウボウから遺伝子編集技術を用いてTbx3aを取り除いた結果、6本の脚が形成不全を起こすことを明らかにしました。
遺伝子編集されたホウボウは味覚センサーを失って、砂中の獲物を探し当てる能力を失ったことから、Tbx3a遺伝子はホウボウの脚と乳頭突起の両方の形成に関わっていると見られます。
Tbx3a遺伝子は非常に古くから生物の中に存在する遺伝子です。
驚くべきことに、ホウボウは私たちの手足の形成に関与するのと同じ遺伝子を使って、ヒレとは別に6本の脚を発達させ、さらに、それらの脚先に味覚機能までも装備してしまったのです。