しかしその後、金氏はJFAの定める1年間の研修と社会奉仕活動に従事し、S級ライセンスを再取得すると、2023シーズンに町田のヘッドコーチに就任。黒田剛監督を支えてJ1昇格を成し遂げ、そしてJ1クラブとして迎えた2024シーズン、大方の予想を見返す大躍進を演じる陰の立役者となっている。

金明輝コーチ(左)黒田剛監督(右) 写真:Getty Images

 常に財政難のクラブにあって、ただでさえ選手の入れ替わりの激しい鳥栖にあって、選手の中に金氏を慕う人物はそう多くはないだろう。しかし、フロントには、2021シーズンには7位とクラブ最高成績を残した金氏を慕うスタッフがいても不思議ではない。チームの危機に、思わず他クラブのヘッドコーチを務める金氏に連絡を取り、アドバイスを求めたという可能性もあるだろう。

 しかしこの行為は、Jリーグ規約の第1章第3条第7項の「Jリーグ関係者は、職務の遂行を通じて知り得た協会、Jリーグ、Jクラブその他のJリーグ関係者に関連する一切の秘密または内部事情を第三者に開示または漏えいしてはならない」とする遵守義務、第5章第89条の「試合の戦略・戦術・選手の起用・トレーニングの内容等の部外者への開示禁止」、さらには、第7章第111条の「監督、コーチおよび育成部門の責任者は、第1章第3条第7項に定める守秘義務を遵守するものとする」とする規定に違反しているのではないかという疑惑が浮上しているのだ。

 これらの規約は、いずれも八百長試合防止のためのもので、この土台の上に、totoなどのサッカーくじの信頼性が担保されている。藁をもつかむ思いでアドバイスを求めた鳥栖のスタッフがいたとしても、その焦る気持ちは十分に分かるし、仮に、旧知の仲間からアドバイスを求められ、これに応えたとしても、金氏の古巣を案じる気持ちも理解できる。しかし、Jリーグ規約を持ち出されれば、「ダメなものはダメ」となってしまう。