先進国革命が起こらない原因

先進国革命が起こらない最大の原因は「資本主義が発達すれば労働者階級は窮乏化する」とのマルクスの「窮乏化法則」(資本論第1巻808~810頁)の矛盾にある。すなわち、「窮乏化法則」に反して先進資本主義諸国の労働者階級の生活水準が向上したからである。

非正規雇用や格差等の問題があるとしても、2024年の勤労者世帯の平均貯蓄額は1474万円(中央値895万円)であり(総務省)、名目賃金も年々上昇し、2024年春闘の賃上率は5.17%である。2024年8月の完全失業率は2.5%で完全雇用に近い。

また、「階級闘争」の象徴とも言えるストライキ件数は2021年55件であり1970年代半ばの年間5000件以上に比べ激減している(厚労省)。これは労働者階級の生活水準の向上と、それに基づく「労使協調路線」の影響によると言えよう。

のみならず、労働者階級においても、マイカー、マイホーム、各種電化製品が普及し、海外旅行を楽しむ労働者層も少なくない。そのうえ、生活保護や国民皆保険など各種社会保障制度も整備され、労働者階級を含む国民は「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条)を概ね保障されていると言えよう。

このような、労働者階級の生活水準の向上が社会主義革命を困難にしている最大の原因と言えよう。なぜなら、前記のとおり、マルクスによれば、資本によって搾取されている労働者階級の貧困化が社会主義革命の絶対的条件とされているからである。

先進国革命が困難な原因は、以上に述べた「経済的原因」のほかに、旧ソ連や中国など、共産党一党独裁による市民的自由や基本的人権の抑圧などの「政治的原因」があり、さらに、先進資本主義諸国間の国際協調による経済的危機回避などの「国際的原因」がある。

先進国革命が起こらない「理論的原因」はシュンペーターが唱えた「創造的破壊」による資本主義の強靭な創造力と復元力にあると言えよう(シュンペーター「資本主義・社会主義・民主主義」上巻150~151頁東洋経済新報社)。

なぜなら、不況や恐慌は古い産業を淘汰し、人的物的資源を再配分し、古い産業に代わって新しい産業を成長させ、構造改革を促進するからである。