ところが、そういう機会を持たないまま、千葉県の駅前で毎朝、街頭演説しているうちに、政権についてしまった。実に茶番である。

筆者は何も、財務官僚の意見を我がものとして採用する、野田首相が非良心的だといっているのではない。野田首相は、財務官僚たちの理路整然とした説明を聞いて、「庶民を守るためには財政再建を最優先にしなくてはならない」と確信しただけだ。それ自体が悪いというつもりはない。

ただ、もし彼がもっと自分の考えを持っていたら、どうだっただろう? そこまででなくとも、さまざまの人の意見を聞いて判断する識見をもっていたら、同じ意見になっていただろうか? それはわからない、ということだ。

もうひとつ、野田が人情の人とはほど遠いという話は、髙市早苗にまつわる逸話だ。彼が千葉県議会議員選挙に出たときに、松下政経塾では総力戦で支えたが、とくに高市早苗は半年ほど船橋市に住んで地域の責任者までやった。

ところが、のちに野田佳彦は奈良県で高市早苗の反対陣営の応援に入った。もちろん、党の代表とか立場上、やむを得ない場合もある。しかし、そうでなければ遠慮するものだ。当然、高市は本人に抗議したようだが、この話を聞いて政経塾出身の民主党(当時)委員も「そりゃないだろう」といって呆れた。