「ミサイル防衛」の困難性と米軍の抑止力低下の危険性

上記の閣議決定のうち、「防衛力整備計画」における5年間総額43兆円の防衛費増額も日本の安全保障上極めて重要であるが、「国家防衛戦略」で定めた「反撃能力」の保有は日本の安全保障政策の大転換として画期的である。

なぜなら、日本は戦後長期間にわたって憲法9条の精神とされる「専守防衛」の概念を堅持し、日本みずから「反撃能力」の保有を防衛政策上禁じてきたからである。そのため、敵のミサイル発射基地などを攻撃する「反撃能力」としての長射程弾道・巡航ミサイル兵器などは保有してこなかった。そして日本の防衛政策としては、敵の弾道ミサイル攻撃などを迎撃する「ミサイル防衛」にもっぱら依存してきた。その背景には、米軍が鉾(攻撃)、自衛隊は盾(防御)の役割分担があった。

しかし、近年における安全保障環境の激変により、上記二つの前提が崩れつつある。すなわち、第一の「反撃能力」については、中国、ロシア、北朝鮮によるミサイル技術開発が飛躍的に進歩した結果、極超音速弾道ミサイル、多弾頭ミサイル、変則軌道ミサイル、飽和攻撃などに対する迎撃が、現行のミサイル防衛では困難となったからである。

このようにミサイル防衛が困難となれば、敵の弾道ミサイル攻撃などから国民を守るための有効な手段がなくなる。このため、敵のミサイル発射基地等を攻撃する長射程弾道・巡航ミサイル兵器を含む「反撃能力」の保有が不可欠となったのである。

第二の「日米役割分担」については、米国は日本のみではなく、韓国、台湾、豪州、フィリピン、NATO諸国など極めて多数の国や地域(ウクライナを含む)と武器供与を含め一定の安全保障関係を結んでいる。そのため、安全保障上の米国の人的物的負担は大きく、日本が「反撃能力」の保有により米軍の鉾(攻撃)の役割を補充し補完することは日本自身の安全保障上も不可欠となった。

近年の中国の核搭載可能中距離弾道・巡航ミサイル兵器(空母キラー)を含む急速な軍事力増強による米軍の抑止力低下の危険性を考えればこのことは理解できよう。

「平和外交」一辺倒の日本共産党

日本共産党や立憲民主党のリベラル派は、「反撃能力」保有を含む防衛力増強と防衛費増額に強く反対している。また、左派系知識人も反対の声を上げている。その理由は、(1)憲法9条に違反する平和憲法の破壊である(2)日本を戦争国家にする戦争への道である(3)軍事対軍事の悪循環に陥り戦争を招く(4)紛争は平和外交で解決できる、などである。

しかし、(1)は、憲法9条は自衛権を放棄していないから(最大判昭34・12・16砂川事件)、国民を守る自衛のための「反撃能力」保有は違憲ではない。(2)は、「反撃能力」は戦争を抑止するためであるが、「自衛隊違憲解消」「安保廃棄」主張の共産党は「非武装中立」であるから「抑止力」保有を一切認めない。(3)は、十分な抑止力がなければ侵略されることをウクライナが証明した。(4)は、ヒトラーに対する英仏の平和外交失敗の歴史的教訓からも、平和外交一辺倒は国を亡ぼす危険性がある。

共産党は政権担当の可能性がないため、ロシアによるウクライナ侵略に対する日本の防衛戦略を一切語らず、単に「平和外交」一辺倒を主張しているに過ぎない。ちなみにフランスでは共産党も「核保有」に賛成している。