例えば、マンチェスター大学(University of Manchester)の2015年の研究でも、電気刺激によって新しい血管の形成が促進され、皮膚の傷の治癒が早まると報告されています。

この効果を縫合糸に組み込むなら、傷の治癒を早める縫合糸を生み出すことができるはずです。

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動きで電気刺激を生み出す「電気縫合糸」 / Credit: Hongzhi Wang(Donghua University)et al., Nature Communications(2024)

そこでワン氏ら研究チームは、複数の層から作られた電気縫合糸を開発しました。

縫合部分の組織が動くと、この縫合糸の中間層と外層が擦れるようになっており、この動きが電荷を発生させるのです。

そのため患者が動く度に、縫合糸の周辺の組織に対して電気刺激が与えられ、治癒を促進してくれます。

しかもこの電気縫合糸は、生分解性ポリマーとマグネシウムでつくられており、医師は抜糸する必要がありません。

では、この新しい電気縫合糸は、傷口の治癒をどれほど早めてくれるのでしょうか。

電気縫合糸は傷の治癒スピードを50%も加速させる

新しく開発された電気縫合糸は、実験では2.3ボルトの電気を発生させることができました。

そして、この治癒効果を確かめるために、研究室で培養したマウス細胞を利用しました。

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電気刺激が線維芽細胞の移動を加速させ、治癒を促進 / Credit: Hongzhi Wang(Donghua University)et al., Nature Communications(2024)

その結果、表面積の69%を占めていた傷は、電気縫合糸によって、24時間後には僅か10.8%にまで縮小しました。

一方で、従来の縫合糸を用いたケースでは、傷は24時間後に32.6%までしか縮小していませんでした。

電気縫合糸を使用することで、治癒が50%も早まったのです。