ドラマや映画では、手術や応急処置を終えたばかりの登場人物に対して、「動くと傷口が開くぞ」なんて言葉が投げかけられるものです。

現実でも、縫合が伴うような手術後は、傷口が開かないよう安静にしていなければなりません。

しかし、入院するほどではない手術の場合、術後に日常生活に伴う動作をしているだけで傷の治りが遅くなるのではかなり不便です。

そこで、中国の東華大学(Donghua University)に所属するホンズィ・ワン氏ら研究チームは、患者の動きを利用して患部に電気刺激を与え、逆に治癒を早める電気縫合糸を開発しました。

「動くな!傷口が開くぞ!」の逆を行くこの新しい縫合糸は、動物を用いた実験で傷の治癒スピードを50%も加速させました。

研究の詳細は、2024年10月8日付の学術誌『Nature Communications』に掲載されました。

目次

  • 患部の動きに応じて電気刺激を与える「電気縫合糸」
  • 電気縫合糸は傷の治癒スピードを50%も加速させる

患部の動きに応じて電気刺激を与える「電気縫合糸」

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治癒を早めたり感染を防いだりする「縫合」/ Credit:Canva

縫合とは特別な針と糸を用いて切り傷をふさぐ治療法であり、これによって傷が治るまでの痛みを和らげ、治癒を促進したり、感染を防いだりします。

しかし、縫合してすぐは、傷口が完全には塞がっておらず、患者の無茶な動きによって再び開いてしまうこともあります。

だからこそ縫合の後は、しばらく安静にするよう求められます。

とはいえ、どんな患者でも、体を完全に動かさないことは難しいでしょう。

日常的な動作は避けられず、それによって縫合がもたらす良い効果が低減する場合があるのです。

このような課題に目を向けたワン氏ら研究チームは、「患者が動く」ことをあえて利用した新しい電気縫合糸を開発しました。

この電気縫合糸の技術の根底にあるのは、「電気刺激によって傷の治癒が促進される」という事実です。