ところで、イスラエル側の報復攻撃がなぜ遅れているのか。中東紛争のエスカレートを恐れるバイデン米政権からネタニヤフ首相へ圧力がかかっているのではないか、といった憶測が流れているほどだ。ただ、明確な点は、イスラエルはイランへの報復攻撃を緻密に計画中だということだ。それを知っているイラン側は一層神経質になっているわけだ。イラン側は「イスラエルが報復攻撃すれば数倍の攻撃をする」と威嚇する一方、イスラエル軍の報復攻撃への危機管理に乗り出している。空港でのポケベルや無線機の持ち込み禁止もその一つだ。イラン新大統領のプーチン大統領との会見もその枠組みで行われたはずだ。

それでは、イランはロシアから何を願っているのか。考えられることは、ロシアの軍事衛星からのイスラエル軍の動きに関する情報提供、対空防衛システムへの支援などだ。同時に、イスラエルがイランの核関連施設を攻撃した場合の対応についてもロシア側の助言を求めたはずだ。

イランは「ハマス」、「ヒズボラ」、イエメンの反体制派民兵組織フーシ派へ武器、軍事支援をし、シリアの内戦時にはロシアと共にアサド政権を擁護するなど、宿敵イスラエルへの攻撃を繰り返してきた。そのイランとイスラエルが正面衝突すれば、中東全土に大きな衝撃が生じるのは必至だ。

ちなみに、イスラエルの対ハマス、対ヒズボラは国家対民間武装勢力(テロ組織)の戦闘だが、イスラエルとイラン両国の戦闘は国同士の戦争を意味する。両国はもはや引き下がれなくなる。

イスラエル側の立場を考えてみよう。イスラエルはイランの軍事攻撃への報復という名目でイランの核関連施設を爆破できる機会を得たのだ。イランの核兵器製造を最も恐れているのはイスラエルだ。2002年、イランの秘密核開発計画が暴露されて以来、イスラエルは核関連施設へのサイバー攻撃を実施する一方、核開発計画に関与する核物理学者を暗殺してきた。例えば、2010年、「スタックスネット」と呼ばれる、米国とイスラエルが共同開発したコンピュータウイルスが、イランのナタンズのウラン濃縮施設を攻撃した。同サイバー攻撃でイランのウラン濃縮活動は数年間遅れたといわれた。また、2012年にはイランの核科学者、モスタファ・アフマディ=ロシャン氏が、テヘランで車に取り付けられた爆弾で殺害された。また、イラン核計画の中心的人物、核物理学者モフセン・ファクリザデ氏が同じように暗殺された。