だが、中国の輸出規制の影響で、既に価格は高騰していることや、アルミニウム精錬の副産物としてガリウムを得るにはコストがかかるため、生産コストの上昇が日本企業の打撃となる可能性は高い。

23年8月から9月にかけて、中国からのガリウムの輸出がゼロとなり、日本企業の中には、緊急に使用済み製品をリサイクル目的で買い集める企業もあった。24年9月現在、中国のガリウム輸出量は以前の半分以下に落ち込んでいるという。

今回、規制が発表されたアンチモニー以外にも、中国がサプライチェーンの主導権を握るレアメタルは多い。非常に硬度が高く軍事用にも使われるタングステン、アルミニウム合金などの添加剤に使われるマグネシウム、耐熱絶縁体として使われるシリコン、高温超電導体や磁性材料として使われるストロンチウムなどがある。

ただし、こうしたレアメタルの生産には環境リスクも伴う。例えば、内蒙古自治区包頭市では、レアアースの採掘の際、廃液、個体廃棄物、排ガスを垂れ流してきたことで、飲用水が汚染されるなどの深刻な環境破壊を引き起こした。今後、環境保護コストは高まる一方で、レアアースの価格の高騰は避けられない状況だ。

中国のレアメタル規制を放置すれば、日本の国家目標でもある半導体戦略にも著しい障害が出ることは明白だ。我が国は、経済安全保障の観点からもサプライチェーンの多様化を一層進め、中国一国への過度な依存を避けなければならない。

【参考】 ・「商務部、レアメタル2種の関連品目に対する輸出規制を発表、8月1日から実施」2023年7月4日、JETROビジネス短信 ・木内登英「中国の半導体素材の輸出規制が始まる:今後の拡大リスクを占う観点からその運用姿勢を見極める必要」2023年8月1日、NRI. ・「レアメタル供給制約強く、中国がアンチモニー規制」2024年9月8日、News Forecast.

藤谷 昌敏 1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。