この特徴的な上腕骨の形状は陸上を歩き始めた魚に共通したものであり、普通の魚の化石と見分けるにあたっての重要なポイントとなります。

一方、研究者たちはティクターリクの発見と同時に、別の奇妙な化石も発掘していました。

その化石はティクターリクよりも小ぶりでしたが、同じような牙と顎(あご)を持ち、獲物に噛みついて口の中に引き込む捕食者(肉食)であったことを示していました。

そのため研究者たちは当時、ティクターリクの子供の化石だと思っていました。

ですがヒレ部分の骨格構造をCTスキャンで分析したところ、上腕部分の構造がティクターリクとは微妙に異なっており、近縁の新種(キキクタニアと命名)であると判明します。

しかし最も驚くべきは「キキクタニア」の上腕骨の構造にありました。

キキクタニアの上腕骨は普通の魚とは違って「陸上を歩く魚」の特徴(指のようなものなど)を残しているものの、体を支えるだけの筋肉が付着できるような構造をしておらず、ヒレは大きく広がっており、陸上よりも水中での生活に適した形状をしていたのです。

さらにキキクタニアの体を調べると、周囲の水の流れを検出するための感覚管も存在していることが示されました。

この結果から研究者たちは、キキクタニアは陸上を歩いていた魚が、再び水中生活に適応するように進化したと結論しました。

進化は単一方向に向かうとは限らない

画像
Credit:National Science Foundation Multimedia Gallery . Canva . ナゾロジー編集部編

今回の研究により、陸上を歩くようになった魚たちの中から、再び水中生活に戻った種が存在している可能性が示されました。

現在の地球での四肢動物の繁栄をみると、魚の陸上進出は結果的に正しく必然的とさえ思えてきますが、キキクタニアはそのような単純な方向付けが正しくないことを示します。

進化は単純な(線形の)プロセスではなく、状況によっては後戻りと思えるような方向に進むことがあります。