五箇条の御誓文の第一条「広く会議を興し、万機公論に決すべし」は立憲政治、議会政治を導いた理念として有名だが、本稿では第四条「官武一途庶民に至る迄、各々その志を遂げ、人心をして倦まざらしめんことを要す」に注目したい。実はこの原案を作った福井藩出身の由利公正の当初の案では、「庶民志を遂げ人心をして倦まざらしむるを欲す」が第一条に来ていたのである。
由利は明治41年7月に発表した「英雄観」で「『庶民をして各志を遂げ人心をして倦まざらしむべし』とは、治国の要道であって、古今東西の善政は悉く皆この一言に帰着するのである。看よ立憲政じゃというても、或は名君の仁政じゃといっても、要はこれに他ならぬのである」と振り返っている(『由利公正伝』)。
どんな身分の家に生まれても本人の努力次第でいくらでも立身出世、成功できる社会を作ることが良い政治の第一条件であると由利は言っている。国家の活力を生むのは立憲政治ではなく、実力主義であるという政治理念がうかがわれる。
百姓の家に生まれ、足軽の家に入り、初代内閣総理大臣となった伊藤博文は、百姓から天下人になった豊臣秀吉と比較され、「今太閤」と呼ばれた(良く知られているように、戦後には田中角栄がこう呼ばれた)。自分の才能だけで立身出世を遂げた伊藤は、身分制を解体した近代日本の申し子である。努力すれば、どこまででも上に行けるという希望こそが近代日本の発展の原動力だった。
ところが、数年前から社会問題として「親ガチャ」という現象にフォーカスするネット記事やニュース番組が増えた。SNS上で賛否両論の議論が巻き起こることもしばしばだ。
「親ガチャ」とは、ネット俗語で「親を自分で選べないこと」を意味する。出生でどの親に当たるのかを、ガチャ(カプセル玩具自販機でレバーを回転させること。どの玩具が出るかは運次第である。転じてソーシャルゲームでキャラ・カードを獲得するためのくじ引きのこともいう)に見立てている。要するに、どのような家に生まれたかという運で人生は決まってしまい、努力しても無駄である、という絶望を表した言葉なのだ。