次にチームは、キツツキの身体測定値と、衝撃発生時の頭部の平均速度をコンピューターモデルに組み込み、「衝撃を吸収しないモデル」と「衝撃を吸収するモデル(くちばしと頭蓋骨の間に衝撃吸収材があると想定)」の2パターンを作成して比較。

その結果、衝撃を吸収するモデルの場合、木をつつく力が極端に弱まることがわかったのです。

シミュレーションした様子。上が硬い嘴と頭蓋骨、下が嘴と頭蓋骨の間に衝撃吸収構造があった場合を示す。衝撃吸収機構があると木へ衝撃波弱まってしまう。
シミュレーションした様子。上が硬い嘴と頭蓋骨、下が嘴と頭蓋骨の間に衝撃吸収構造があった場合を示す。衝撃吸収機構があると木へ衝撃波弱まってしまう。 / Credit:Van Wassenbergh et al/Current Biology(2022)

研究主任のサム・ヴァン・ワッセンベルク(Sam Van Wassenbergh)氏は、こう説明します。

「もしキツツキが、衝撃を吸収しながら木をつつくとしたら、非常に余分なエネルギーコストがかかります。

脳への衝撃を軽減するクッションを内蔵していると考えた場合、木に穴を開けるためには、今よりもっと強い力が必要となるでしょう

では、衝撃吸収材を備えていないのに、どうして脳へのダメージがないのでしょうか?

キツツキの脳サイズなら、脳震盪は起きない

エボシクマゲラ
エボシクマゲラ / Credit: Gordon Congdon/Audubon Photography Awards

キツツキの一回一回のつつき行動は、サルやヒトの脳サイズであれば、脳震盪を起こすのに十分な衝撃があります。

しかし調査の結果、キツツキ程度の小さな脳であれば、その衝撃でも脳にダメージを与えるには及ばないことが明らかになったのです。

ワッセンベルク氏は「キツツキの脳サイズを踏まえた場合、つつき行動による衝撃は、脳震盪を起こす閾値をはるかに下回っていた」と説明します。

(A)人間の脳と(B)3種のキツツキの脳を比較した図。キツツキの脳サイズでは脳震盪の閾値圧力が人間よりも有利であることがわかる
(A)人間の脳と(B)3種のキツツキの脳を比較した図。キツツキの脳サイズでは脳震盪の閾値圧力が人間よりも有利であることがわかる / Credit:Van Wassenbergh et al/Current Biology(2022)