ちなみに、ロシアとウクライナ戦争で両国の繋がりが完全に立ち切れた象徴的な出来事はウクライナ正教会のモスク総主教府からの独立宣言だろう。ウクライナ正教会は本来、ソ連共産党政権時代からロシア正教会の管轄下にあった。同国にはウクライナ正教会と少数派の独立正教会があったが、ペトロ・ポロシェンコ前大統領(在任2014~19年)の強い支持もあって、2018年12月、ウクライナ正教会がロシア正教会から離脱し、独立した。その後、ウクライナ正教会と独立正教会が統合して現在の「ウクライナ正教会」(OKU)が誕生した。これまで存在してきたウクライナ正教会(UOK)はモスクワ総主教のキリル1世を依然支持していたが、2022年5月27日、モスクワ総主教区から独立を表明した。その結果、ロシア正教会は332年間管轄してきたウクライナ正教会を完全に失い、世界正教会での影響力は低下、モスクワ総主教にとって大きな痛手となった(「分裂と離脱が続くロシア正教会」2022年5月29日参考)。

ロシア正教会最高指導者のモスクワ総主教キリル1世はプーチン大統領のウクライナ戦争を「形而上学的な闘争」と位置づけ、ロシア側を「善」として退廃文化の欧米側を「悪」とし、「善の悪への戦い」と解説する。キリル総主教は2009年にモスクワ総主教に就任して以来、一貫してプーチン氏を支持してきた。キリル1世はウクライナとロシアが教会法に基づいて連携していると主張し、ウクライナの首都キーウは“エルサレム”だという。「ロシア正教会はそこから誕生したのだから、その歴史的、精神的繋がりを捨て去ることはできない」と主張し、ロシアの敵対者を「悪の勢力」と呼び、ロシア兵士に闘うように呼び掛けてきた(「キリル1世の『ルースキー・ミール』」2022年4月25日参考)。

ロシアとの戦闘は長期化の様相を深め、ウクライナの苦難は続く。厳しい冬が迫ってきた。ウクライナは2022年2月にロシアの大規模な侵攻が始まって以来、最も厳しい冬に直面する可能性があると予想されている。ロシア軍は3月以降、ウクライナ全土の発電インフラを集中攻撃。キーウや北東部ハリコフなどでは全ての火力発電所が損傷した。停電は日常茶飯事、自宅で温かいスープで寒さをしのぐといった贅沢はできない。爆撃で窓が吹っ飛んでしまったアパートメントに住むキーウ市民は新しいガラスが手に入らないから、寒さが厳しくなる前に窓にビニールを貼って緊急処置をする、といった具合だ。