両名の発見は、ネットワーク内の物理現象をAIとして解釈するという点において、まさに物理学的なものと言えます。
また2人の発見を機に、AIの研究が徐々に加速し、現在の「AIの春」と言える状況が作られたという点も選考のポイントになったと考えられます。
AIと脳の類似性は最新のシステムでもみられる
現在のAIの人工ニューラルネットは、エネルギー計算をベースにしたものではありません。
しかしホップフィールド氏とヒントン氏によって考案された仕組みは、その後発展と改良を続けていき、ディープラーニングの畳み込みニューラルネットワークや、大規模言語モデルの自然言語処理システムへと進化していきました。
人間の脳のように学習によって少しずつ人工ニューラルネットワークを改善していくという戦略は、AI自体の規模拡大と演算の高速化、さらに絶え間ない手法の改善により、実用化の道を進むことになります。
また興味深いことに、AIが進化しても脳機能との類似性は存在し続けている点があげられます。
たとえばディープラーニングの畳み込みニューラルネットワークでは、脳の視覚野のように多層構造のニューラルネットを採用することで、画像の認識能力を上げることに成功しています。
また大規模言語モデルの自然言語処理には、前頭葉や頭頂葉の担当する注意の集中や注意の方向付けと関連する仕組み(自己注意機構)やワーキングメモリの仕組みを採用することで、高度な情報処理を実現しています。
現在AIの進化については、楽観論と悲観論の両方が存在します。
ノーベル賞授賞式にてヒントン氏は「AIは産業革命に匹敵するだろう。しかし今回は人間の肉体的な強さを上回るのではなく、知的能力で上回ることになるだろう。人間よりも賢いものを人間は知らない。AIは多くの点で素晴らしいが、同時に制御不能になる脅威など、いくつかの悪い結果も心配しなければならない」と述べました。