さて、選挙から2週間余りが経過したが、オーストリアの新政権はいつ発足するだろうか。同国の政治学者は「クリスマス前には新政権が発足するのではないか」と予想している。

議席を獲得した政党は自由党、国民党、社民党、ネオス、「緑の党」の5党だ。その5党が議会の過半数を有する安定政権を目指して組閣工作を始めるが、舞台裏で既に始まっている。自由党を除いた4党は第1党の自由党と連立政権を組む考えはない。自由党一党でも過半数には届かない。一方、国民党のネハンマー首相は8日、社民党のバブラー党首と非公式の会談をしている。国民党と社民党の2党では議会の過半数にはぎりぎり届くが、不安定だ。どうしてもネオスか「緑の党」を加えた3党連立政権の発足を目指すことになる。現時点では最も現実的なシナリオと受け取られている。

問題がある。政治信条が異なる政党同士が「極右政党に政権を与えない」という大義のもとで政権を組閣し、議会で過半数を占められたとしても、安定政権とはなりにくいという現実がある。例えば、富裕税など増税を主張する社民党に対し、国民党とネオスは増税に強く反対している。移民政策でも国民党と社民党では異なる。3党連立政権が発足したとしても安定政権からはほど遠い。

政治信条からいえば、自由党と保守派政党「国民党」は近い。両党は過去、連立政権を組んだことがある。州レベルで3州で政権を組んでいる。だから、自由党と国民党が連立を組んだ場合、過半数は十分とれ、議席数からも安定政権となる。問題は第2党の国民党だ。ネハンマー首相は選挙戦からキックル党首の自由党とは政権を組まないと表明してきたため、公約を破って自由党と組閣すれば、有権者から強い反対を受けることになる。

それでは自由党と国民党の2党連立政権は無理かといえば、一つだけ可能性がある。ネハンマー首相は「問題はキックル党首だ」と言ってきた。そのキックル党首が新政権に入らないならば、ひょっとしたら連立の可能性が出てくるかもしれない。それに対し、キックル党首は「自分は国民首相になる」と宣言し、自由党外し、キックル党首外しを牽制している。キックル党首を支えているのは「有権者140万人が自由党に投票した」という事実だ。民主的選挙で第1党となった政党外しは非民主的だというわけだ(「極右『自由党』は何を考えているか」2024年9月1日参考)