ただし、民主党議員が僅差ながら多数を占める上院ではこの法案への反対が強く、いまのところ審議や表決の見通しは立っていない。

民主党側では一貫して「不法入国者の不正投票はきわめて少数であり、選挙全体の結果を動かす状況にはまったくない。その状態を誇大に宣伝するのは共和党側による民主党支持者の投票に対する不当な妨害の策謀だ」と反論する。

第2の動きは、共和党側の全米各地合計8州の代表が「アメリカ市民だけの投票を」と題する草の根の組織を発足させたことだった。この組織は9月上旬にワシントンで旗上げの集会を開いた。私もその集会を傍聴した。

会場にはケンタッキー、ミズーリ、アイオワ、ウィスコンシンなど合計8州からの州務長官、司法長官、州会議員、市会議員ら約30人が集まっていた。そしてまずこれら8州では有権者登録や実際の投票について連邦憲法を受けての州憲法の規定が曖昧なためアメリカ国籍保有者だけが投票権を有する趣旨へと、より明確に改正することを訴えていた。そのうえで同8州の代表たちは、それぞれ自分たちの州で不法入国者の有権者登録が不正に実施されつつあるという実例を報告した。

その種の不正登録の実例としてはこの集会での報告を含めて、米側の最近の報道などでは以下のようなケースが伝えられている。いずれも今年8月から9月にかけて表面に出た動きだった。

アラバマ州では地方検事が42歳の女性の不法入国者が2016年と2022年の大統領選挙でアメリカの国籍がないのに不正申告で取得した旅券を使い、選挙権を不正に得て、投票をしたとして起訴した。今回の選挙でも不正投票の意図が明確だった。 アラバマ州の州務長官は同州内でアメリカ国籍のない人間が大統領選での有権者登録をしていた実例合計3251件あることを発見し、その再手続きを州内の各郡事務所に指示した。その不正登録の大多数は不法入国者だったという。 オハイオ州の司法長官は同州内で非アメリカ国籍の居住者合計137人が不正に有権者登録をし、前回の2020年で実際に投票していたと、発表した。また他の459人が同様に不正の有権者登録をしていたが、実際には投票しなかった。その大多数が不法入国者だったという。 テキサス州知事は2016年の大統領選以来、州内で合計6500人ほどの非市民による不正な有権登録があったことが判明したと発表した。そのうち実際に投票したのが約130人だったという。 ジョージア州の州務長官は2022年以来、同州内で不正な有権登録を試みて発見された事例は1634件だった、と発表した。その多くが投票前に不正が発覚し、投票にはいたらなかった。だが実際に投じられた不正投票の数は不明だという。

以上のような実例が確認されていても、民主党側は全体としてごく少数だとして、新たな規制や法律の制定には反対する。だが不法入国者の扱いについては共和党側とは根本が異なることは明らかだといえる。