北朝鮮ぐらいになると、何でも理由にして反論できるものだ。なぜ、APGの現地訪問をこれまで認めてこなかったのか、なぜ年次報告を提出しないのかといった肝心な問題については沈黙するだけだ。
看過できない点は、北はなぜAPGのオブザーバーになったかだ。北側にはメリットがあったからだ。国際社会でのマネー・ロンダリング対策のノウハウに関する情報が入手できるからだ。麻薬や武器の密輸で外貨を稼ぎ、それをマネーロンダリングする北側にとって、反マネーロンダリングのノウハウを知ることは大きな助けだ。
マネーロンダリングをしている北をAPGに加盟させることは盗人にどのようにして警察の捜査から逃げるかを教えるようなもので、賢明とはいえないが、国際社会では北側を排斥するのではなく、抱擁するほうが得策だと考える国がいる。北朝鮮の真相を知らない懲りない国々だ。
実例を挙げよう。北朝鮮は2007年3月、3つの麻薬関連国際条約の加盟国となった。北朝鮮が加盟した国際条約は、「麻薬一般に関する憲章」(1961年)、「同修正条約」(71年)、「麻薬および向精神薬の不正取引に関する国際条約」(88年)の3件だ。
ウィーンに本部を置く国際麻薬統制委員会(INCB)のコウアメ事務局長(当時)は「北朝鮮政府が国際麻薬関連条約に加盟することを決定し、批准したということは、国際条約の義務を履行する決意があるからだ。平壌が国際条約加盟国として真摯にその義務を履行すると確信している」と述べた。
「国家ぐるみで麻薬犯罪に関与」を疑われてきた北が国際麻薬条約に加盟したことは当時、世界を驚かせた。
北朝鮮代表は当時、「わが国の政府は不法な麻薬製造、取引、乱用は健全な社会環境を破壊していると憂慮し、麻薬対策の為に国際連携を強化しなければならないと考えている」と主張し、「わが国は2003年8月に麻薬関連法を施行するとともに、2005年2月には麻薬対策国家連携委員会を設置してきた。わが国は既に麻薬関連の国際条約を完全に履行できる体制ができている」と宣言、国際条約の履行を約束している。