幸運なことに、人工的に合成されたブラストイドもまた、胚盤胞と呼ばれる時期と同じ形状をしていました。
そこでマックスプランク研究所の研究者たちは、ヒト幹細胞ベースのブラストイドを用意し「mTORシグナル伝達経路」をブロックしてみることにしました。
もし人間の胚休眠能力がヒツジと同じく眠ったままであるならば、この方法で胚発生を一時停止できる可能性があったからです。
すると、ブラストイドの成長が最大で8日間、一時停止状態になることが判明。
(※また細胞レベルの分析では、「mTORシグナル伝達経路」のブロックは最大で18日間に及び発生停止を続けさせる効果があることがわかりました。)
ブロックを解除したところ、一時停止も解除され、再び胚発生プロセスが開始されることも確認できました。
加えて逆に「mTORシグナル伝達経路」を活性化させてみたところ、ブラストイドの発生が加速する現象もみられました。
この結果から研究者たちは、人間の胚休眠能力はヒツジと同じく眠った状態で保存されていると結論しました。
人間もかつてはマウスのように胚休眠能力を持っていたと考えられますが、進化の過程で次第に行わなくなっていったと考えられます。
ただ胚休眠を起こす仕組みだけは、残っていました。
例えるならば、「胚休眠を起こす一時停止ボタンを押す能力は失っても、一時停止ボタンそのものは残っていた」と言えるでしょう。
研究者たちは胚休眠システムを理解することは生殖医療に影響を及ぼすと述べています。
たとえばより発育速度が速いほうが体外受精の成功率を高めることが知られており、「mTORシグナル伝達経路」の活性を高めることでこれが達成できるかもしれません。