石破茂首相 首相官邸HPより

顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久

石破茂氏がついに日本国の首相となった。「ついに」と強調するのは、石破氏がこれまで4回も自民党総裁選に名乗りをあげ、その度に失敗してきたからだ。

石破氏が自民党総裁を経て、新首相になる過程では新政策とも解釈出来る多くを語った。その中で、日本の対外政策として注視されたのは「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想だった。この構想は日本の安全保障における最大のパートナー国であるアメリカでどう受け取られたのか。本稿ではそこに焦点を合わせて報告したい。

まず結論を先に述べよう。この石破構想は米側ではあまりに非現実的だとして、一笑に付された。その内容の愚かさに嘲笑といえる反応も多かった。そもそも、この石破構想は米側の入り口で真剣に受け入れられなかった。だから一般向けに幅広く報道されてもいない。この構想を知って反応したのは日頃、日米安全保障関係に関わっている少数の専門家だけである。

石破氏は自民党総裁選でも「アジア版NATO」の創設を唱えた。アジアで紛争が起きやすいのはヨーロッパのようにNATOのような集団防衛体制が無いからだ、として、「日米同盟や米韓同盟、米比同盟などの枠組みを有機的に結合することでアジア版NATOを作るべきだ」と主張した。ただし、その際にはこの集団防衛体制に中国を含むことも有り得るとして、「中国を入れるか入れないかは決められない」と述べた。

ここにも石破氏の言葉の虚構がある。なぜなら、石破氏が総裁選と時期をほぼ同じくしてアメリカの大手研究機関のハドソン研究所に送った安全保障・外交政策の寄稿では、このアジア版NATOは中国を「脅威の対象」とすると明記していたのだ。

その逆に、中国を含む集団防衛体制となれば、日本の安全保障政策の根幹が崩れる。中国は日本に対する明確な軍事的脅威なのに、その相手と手を結び、対等な同盟関係を結ぶことになるからだ。このシナリオはかつて中国が主張していた「東アジア共同体」構想に等しい。中国を中心とする国家群に日本も隷属する形で加わることになるからだ。