レバノンのシーア派武装組織「ヒズボラ」の最高指導者ナスララ師の死は大きな波紋を中東全土に広げてきた。ヒズボラを30年以上指導し、中東で非国家の軍事組織としては最大規模の武装組織に育て上げた人物だ。その指導者を失ったヒズボラが報復のため暴発する恐れがあるが、それ以上に、パレスチナ自治区ガザを実質支配してきたイスラム過激テロ組織「ハマス」やヒズボラを軍事支援してきたイラン側の反応が懸念される。イスラム教聖職者支配体制の指導者たちは国のメンツがたつならばイスラエルと正面衝突を回避したい意向だが、イラン革命防衛隊(IRGC)はイスラエル軍と一戦を構えるという誘惑に動かされている兆候がみられる。

イスラエルに向けてミサイルを発射するイラン(イラン国営通信IRNA、2024年10月2日)

ドイツの高級週刊紙「ツァイト」電子版は2日、「中東はここ数十年で最も危険な段階に突入している」と報じたが、その懸念は残念ながら当たろうとしている。イランは1日、約180発の弾道ミサイルをイスラエルに向けて発射した。イスラエル側の発表では、「大部分はイスラエル側の対空防衛システムで撃ち落とされたので、大きな損害は出ていない」という。外電では、米軍も一部、イランの弾道ミサイルを撃ち落としたという。

イランが弾道ミサイルを発射すれば、約2分以内でイスラエル領土に到着する。イスラエル国防軍(IDF)が全土で警戒サイレンを鳴らして、国民にシャルターに避難するように呼び掛けたという。

イラン側はイスラエル軍の軍事力を侮ってはならない。イスラエル軍は27日、レバノンの首都ベイルート南部でナスララ師を殺害したが、その時、イスラエル空軍は米国製の2500ポンドの爆発力を有するバンカーバスター(GBU-28)を投下したといわれている。イスラエル軍が2009年、米国から密かに手に入れた巨大な爆弾だ。ナスララ師の隠れ家が完全に破壊されたのも頷ける。